「ラウドボーンはゴツゴツしてるところが最高にキュートじゃん? だから僕に似合うって言うか」
「デカヌチャンはオーソドックスキュート。もう見た目から完璧。でかいハンマーぶん回すところがさあ、特にキュートの塊って感じ」
「ミミッキュは語る言葉もないね。ミニマムなのがもうかわいい。ピカチュウになろうとしてるってあたりがね、もうね、切なすぎてかわいい。ばけのかわもいいね」
「ドオーはもうね、まるっとしてるところが最高。尖ってないじゃん。ちびっ子も安心安全な見た目してるのにちっとも安全じゃないところとか好きだわ」
「ロトム! お前のいたずら好きなところあまりにもかわいい。ウォッシュロトムのフォルムが個人的にベストキューティスト」
「セグレイブのどしっとしたところ、安心感と安定感があるのにシンプルなキュートを感じさせる尻尾。ここテストに出すよ、かわいいポイントだから」
聞いてもないのに、ハルトはペパーに手持ちポケモンがいかにかわいいかを語り出す。ちなみに今週二回目の語り出しに、ペパーはそうかそうか、と適当に流す。
黒タイツにピンクのナイロンリュック、ピンクの指貫グローブに白と黒のエンジニアブーツ。バタフライサングラスはシルバーとレッドの組み合わせだ。スマホロトムはピンクカバーだ。ピンクブラウンの髪にスモーキーピンクな目とまつ毛。どこからどう見てもかわいい、というのは本人の発言だ。
そんなカワイイ・オブ・ザ・イヤー毎年受賞している(本人談)ハルトは、目の前の青年に熱く語っている。理由はない。ただかわいい自分を鏡で見たから、とかそう言う理由で語り出したのだろう。
「そこでですよ。かわいい僕とかわいい手持ちがこの世に存在しちゃってるってことは、サンタさんもかわいいプレゼントを用意して待ってるってわけ」
「サンタ?」
「そ、サンタ。今年は寮当てにオヤジが送ってくれるって言ってたから、楽しみなんだよね」
「サンタか……」
「おーっとぉ、これはハルトちゃん地雷ぶち抜きの気配濃厚では?」
パイセンごめんって。
ハルトなりに真摯に謝る。言葉こそいつもの軽い調子だが、表情と目は真剣そのものだ。気にすんなって、と返すペパーだが、あまり楽しい記憶がないのだろう。その表情はまだどこか沈んでいる。
これは真面目にやらかしたな、と理解したハルトは、パイセン今度休みなら彼氏の家行けばいいじゃん、と提案する。どうしてそうなった?
「は!? かれし、ってえ!?」
「アオキさんと仲がいいって、チリちゃんから教えてもらったけど」
「いや、まあ、その……親しくはしてもらってるけどよ……別にそう言う仲じゃ」
「よし、じゃあ、既成事実つくってそう言う仲にしようぜ。パイセンのご飯なら、アオキさんの胃袋にこうかばつぐんでしょ」
「アオキさんはポケモンちゃんじゃねえっての……てか、なんでそう言うことになってんだよ」
「なんでって、パイセンが手料理振る舞ってるってチリちゃんが言ってたから?」
チリちゃんにドオーのキャラ弁作ったのも、ポピーちゃんにデカヌチャンのキャラ弁作ったのも知ってるんだぞ、と言うハルトに、どっから情報が漏れてるんだよ、とペパーは頭を抱える。SNS、とけろっと返してくる彼に、ネットにあげるの禁止って言うか、と大真面目にペパーは考える。
そもそも、たまたまチャンプルタウン近郊でピクニックをしていたときに、ふらふらの体でチャンプルタウンに戻ろうとしているアオキを見かけて、せめて腹に何か入れてくれと有り合わせのサンドイッチを押し付けたのが全てのきっかけだ。
お礼がしたいという彼に、たまに食べてくれて、感想とアドバイスをくれるのが最高のお礼だ、と告げたのは少し前のことだ。そこからずるずると続いて、今では時々アオキに弁当を持たせたり、アオキ経由で他の四天王たちに弁当が差し入れされたりしているのだが。
……閑話休題。
家にお邪魔したことがないわけではないが、クリスマスにお邪魔するのは流石に躊躇われるとペパーが難色を示していると、スマホロトムをずっと弄っていたハルトが、四天王たちでクリパやるってチリちゃん言ってるから凸ろうぜ、と空気を読まずに発言する。
というかパイセン普通に家お邪魔する距離なんかよ、それは距離感バグりちゃんなんだわ、とペパーに聞こえない声量でハルトはぼやく。
「凸るって、お前が?」
「パイセンとオレ。イブイブの二十三にやるらしいし、どうせパイセン暇っしょ? ボタンは親戚んち行くらしいし、ネモも実家のパーティーで忙しいだろうから、四天王たちのクリパ行こうぜ」
「お前だって、母ちゃんがいるだろ」
「ママとのパーリナイはイブからですぅー。で、パイセン行くの?」
「……オマエ一人だとあぶねーから行く」
「なにがあぶねーのか」
「ありもしねえことを言いそうじゃんかよ」
「んだとぉ。よしきた。本人を前にして言ってやろうじゃんよ。てことで、チリちゃんに二人追加って言っとこ」
「結局言うのかよ……」
パイセン手土産にクソデカダイマックスケーキ作ってこ、とハルトが提案すると、運ぶのが大変だから普通サイズな、却下される。マフィティフのこれ作ってこ、とめげずにスマホロトムで検索した画像を見せながら提案すれば、作るか、と提案を受け入れられる。
「チリちゃんにペパーとオレ追加で、パイセン特製ケーキ持ってくって言っちゃったわ」
「その行動の速さはなんなんだ?」
「速さと早さが勝負を分けるんだよ、パイセン」
そういやリーグの社員食堂のバイトはどうなの、とハルトがスマホロトムを触りながら尋ねると、忙しいけど楽しいと返ってくる。
最近ペパーが始めた社員食堂のアルバイトは、料理人を目指す彼らしいアルバイトであるとハルトは理解していた。当の本人といえば、今は皿洗いから下準備までしかさせてもらえないらしいが、いずれメニュー考案させてもらうんだ、とやる気に満ち溢れている。
リーグの人、みんな疲れてるから元気になれる料理を作ってやりたいよな、と語る彼に、ぴったりの職場を見つけてきたな、とハルトはスマホロトムの画面を消しながら思う。求人募集サイト様様である。
「それよりパイセン、チリちゃんからクリパのプレゼント交換を持ちかけられたから、あとで買い出し行こ」
「プレゼント交換?」
「そそ。パイセンはしたことないかもだけど、」
「オマエちょいちょい失礼ちゃんだよな」
「クリパといえばプレゼント交換は必須だから。デリバでなんか見繕うかなー」
「ふーん、そんなもんか……じゃあ、マフィティフケーキとは別のケーキでも持ってくか。消え物の方が貰う側も気が楽だろ」
「パイセンらしくていんじゃね?」
オレはデリバで栄養ドリンク詰め合わせだわ、とにししと笑いながら言うハルトに、実用的すぎるだろとペパーもつられて笑うのだった。