びゅう、と吹き抜けた風に、ペパーは首をすくめる。もこもこのライトイエローのダウンジャケットを着た彼は、寒ィ、と小さく呟く。隣を歩いていたアオキもまた、今のは冷たかったですね、と呟く。
耳を赤くして歩くアオキに、ペパーは耳当ているか、と尋ねる。白と焦げ茶色のイヤーマフをしたペパーを見下ろしたアオキは、大丈夫ですよ、と首を振る。
ライトイエローのダウンジャケットに、白と焦げ茶色のイヤーマフ。首元には空色に雲の柄の入ったマフラーをしたペパーはもこもこの完全防寒体制だ。もちろん、手は茶色の毛糸の手袋をしている。
対するアオキは黒のトレンチコートに灰色のマフラー、黒の革製の手袋をしているだけである。そんな格好のアオキを見て、ペパーはぶすっとふくれっ面でぼやく。
「俺には暖かい格好しろ、っていうのに、アオキさんは寒そうじゃんか。トレンチコートじゃ寒いだろ」
「そうですね。ただ、業務中にダウンジャケットは着られませんので……」
「そうだけどよお」
「下に履いているレギンスも、一枚目の靴下も裏起毛ですから、温かいには暖かいですよ」
「靴下二枚履きはやりすぎちゃんだと思うぜ?」
「そうですかね……」
アオキは温かいのですが、と風に消え入りそうな小さな声で呟く。そんなアオキの声は聞こえなかったペパーは、寒いから温まるものにしよう、と夕飯のメニューを考える。
スープやシチューがいいな、と思いついた彼は、アオキになんのシチューが食べたいか尋ねる。シチューですか、と反芻したアオキに、あたたまるだろ、とにかっと笑ってペパーは頷く。
「冬というと鍋でしたから……もう何年も食べていませんが」
「ナベ?」
「カントーやシンオウのほうでは、土鍋に具材をいれて、スープをいれて煮込んだものを鍋、と言うんですよ。キムチを使っていればキムチ鍋、トマトをたくさん使っているならトマト鍋とか言いますね」
「へえ……アオキさんもよく食べてたのか?」
「ええ。実家にいたときは、冬になると三日に一度は鍋でした。そのくらい身近な料理ですね。……ああ、シチューでしたっけ……」
「あ、そうそう。シチューな。なんのシチューが食べたいとかあるか?」
「……」
「アオキさーん? 考え込むのはいいけど、歩いていてくれよ?」
アオキの長考癖が出始めたところで、ペパーは声を掛ける。寒い外で待つのは、いくら防寒したペパーとはいえ堪えるものがある。
声をかけられ、体を揺すられたところで意識を目の前に戻したアオキは、あなたが作る料理はどれもうまいので、と切り出してから、以前作ってくれたリンゴと豚肉のシチューがいい、と口を開く。
「あれかあ。うまいもんな、あれ」
「ええ。あれは箸が進むので……」
「アオキさんの箸が進まない料理ってあるのか? まあいいや。たしかリンゴはあったはずだし、人参もあったはずだし……ルゥと肉がないのか」
「買いに行きましょうか」
「おう、行こうぜ!」
ペパーは意気揚々とスーパーマーケットのほうに足を向ける。そんな彼を微笑ましく思いながら、アオキもまた足を彼と同じ方角に向ける。
並んで歩きながら、シュトレンを買ってきたんだ、とペパーは口を開く。大きいのを二つ買ってきた、と続いた言葉に、少しずつ食べるんでしたっけ、とアオキは朧気な記憶を引き出す。自分一人ではあまり関係のない季節行事すぎて、アオキの中にシュトレンの知識はない。パン屋に行くとこの時期よく目にする、というくらいの感想だ。
今年はアオキさんとポケモンたちみんなで食べるから、大きいやつにしちまったんだ、とにこにこしているペパーに、そうでしたか、とアオキは表情筋をわずかに緩める。
「晩メシ食べたらさ、デザートに一切れずつ、みんなで食べような」
「そうですね。楽しみです」
「やっぱり、クリスマスはシュトレンとアドベントカレンダーだよなあ」
「アドベントカレンダーですか」
「おう! リーグ公式のショッピングサイトで買ったんだ」
毎日ひとつずつ開けて、出てきたシール集めてるんだ。そう話すペパーに、そういえばそんな商品があったな、とアオキは思い出す。毎年デザインが少しずつ違う、クリスマスデコレーションがされたポケモンシールが入ったアドベントカレンダーは、どちらかといえば幼年向けだ。四天王・ポピーほどの年齢の子向けで、ペパーほどの年齢で買うのは珍しいのではないか、と思いつつも、楽しいようだからいいか、とアオキは思考を放棄する。
昨日はサンタの帽子を被ったオラチフだったんだ、とニコニコしているペパーに、かわいいですね、とアオキは頷く。今日はカラミンゴがサンタ服着てたシールだった、と報告するペパーに、アオキはジャケットの内側に納めてるモンスターボールが揺れるのを感じる。おそらく、自分の名前が呼ばれたと思ったカラミンゴだろう。
家に帰ったらカラミンゴに見せてあげてください、とアオキが言えば、もちろんだとペパーは頷く。
見えてきたスーパーマーケットの自動ドアをくぐり、ペパーはカゴをひとつとる。アオキがカートはいるか、と尋ねるが、ペパーは肉とルゥだけ買う予定だからいらない、と首を横に振って断るのだった。