「ストップ! ストップ! 晶ちゃん、待って! 待とう!」
「試したいんだろう?」
「いやいやいや、いやいやいや! 試したいとは思ったし、だから買ったんだけどね!? 今すぐとはね、言ってないんだよ!?」
「そうか。だが、気になるのならすぐに試してみないか?」
「それは……って、シてるのを見たいだけでしょ、晶ちゃんが!」
「そうだが?」
「そうだが? じゃ、なーい!」
肩で息をしながら、巣鴨はカーペットの上に押し倒そうとする恋人を跳ね除ける。跳ね除けられた晶は、特別気分を害した様子もなく、いつものようにそうか、と平然としている。
こたつの上には、ちょこんとダンボールが置かれている。取り外された伝票には、精密機器、とだけ書かれている。すでに開封されているその箱の中身は、いわゆるアダルトグッズだった。宛先は巣鴨の名前であり、購入したのは巣鴨の方だった。それはアナルオナニー用のグッズだった。
晶の手引きの甲斐もあって、巣鴨は自身のものを触っての自慰行為をすることもあるが、アナルを使った自慰行為も時々行っていたのだ。それは恋人が自分を押し倒して蹂躙することのほうが多いのもあるが、なにより物を咥えるほうも気持ちがいい事に気がついてしまったからである。それに気がついたときの巣鴨は、新しい自分の発見、と本人は頭を抱えていたのだが、それはさておくこととしよう。
送られてきたものをうっかり――うっかりリビングで開けてしまったのが運の尽きである。でかけていた晶が帰ってきて、箱の中を見てしまったがゆえに冒頭のやりとりに発展したのだ。
「自分から広げようとする努力は素晴らしいと思うぞ」
「うう……普通に恥ずかしい……お嫁にいけない……」
「婿にならもらうが」
「やったー! ……じゃ、なくって!」
「使うんだろう? ローションを取ってくるが」
「うっうっ……優しいし手慣れてる……いや、まだしないよ!? 後ろだってきれいにしないといけないからね!?」
「もうしたんだろう?」
「……ノーコメントで!」
「したんだろう? 洗浄」
雄大は新しいものが好きだからな。
そう薄く笑った彼女に、巣鴨は目をそらすことしかできない。図星もいいところで、晶がでかけている間に洗浄は済ませていたのだ。新しく届いたものは、なるべくすぐに楽しむための準備は怠らない。その性格を熟知されていることに嬉しいような、今は発揮しないでくれと思うような、巣鴨としては複雑な気持ちである。
呼び止めるまもなく階段を登っていった晶に、このままだとリビングで押し倒されて届いたばかりのエネマグラを使うことになりかねない。せめてもの抵抗でベッドの上がいいな、と言いながら巣鴨はエネマグラを手に、晶を追いかけるように階段を一段飛ばして上がっていく。階段を登ったところにある晶の部屋から本人が出てくる。パウチのローションはちょうど切らしていた、とつげた彼女はボトルのローションを手にしていた。
「どうした」
「せめてベッドの上がいいです……」
「そうか」
「ひ、ひとりでできるから! いけるから!」
「そうか。成長も一入というやつか」
「んもー! そんなに見たいの!?」
「そりゃあ、な。自分が勧めたが、自分からアナニーするようになるとは思っていなかったしな」
「見学お断り……!」
「つれないな。雄大は体が硬いから、大変だろう」
手伝われたほうが素直に気持ちがいいと思うが。
巣鴨と一緒に彼の部屋に入ってきた晶を追い返せずに――内心、追い返す気がそれほどないことに彼女自身気がついていたのだろうが、巣鴨はわかったよぉ、と情けない声をあげるだけにする。
ベルトをゆるめて、チノパンを脱ぐ。紺のボクサーパンツを脱ぎ捨てて、巣鴨はベッドの上にあがる。四つん這いになった彼を見下ろしながら、晶は一緒に持ってきていた指サックを指につけると、巣鴨の尻にローションを垂らす。冷たかったのか、ひぃ、と小さな悲鳴があがったが、気に留めることなく晶は指サックをつけた指で垂らしたローションをすくい取ると、菊座へと指を伸ばす。くち、とローションをたっぷりとこすりつけて、柔らかくするようにマッサージを繰り返す。
枕を抱えた巣鴨は、指先の感覚にむずむずとしてしまう。追加されるローションを尻穴の中に入れられる。潤滑剤をふくんだそこは、指サックをつけた指を一本なんなく飲み込む。中を広げるように動かされ続け、もう一本指を増やされる。
ぐちゅ、と粘着質な音ともに広げられた出口は、こじ開けられてもそれほど痛みを感じない。二本の指は広げるように動き回るばかりで、決定的に気持ちよくなれる場所には触れることもしない。それがもどかしく巣鴨が思っているのを知ってか知らずか、晶はさらに潤滑剤を足して指を引き抜く。ぴと、とジェルのついたコンドームを被せたエネマグラをあてがう。
人肌とは違う温度があてがわれたことに気がついた巣鴨が何かを言う前に、晶はぐい、とあてがったそれをねじりこむ。抵抗した菊座だったが、きゅぷと避妊具に包まれたそれを飲み込む。形をなじませるように奥に差したままにすれば、そろそろと巣鴨の手が伸びる。自分で動かそうとする彼の手を静止して、晶はエネマグラを抜き差しする。
動かされるそれがピンポイントでいいところをえぐるのか、巣鴨は枕を握ったまま体を跳ねさせる。
「ぁ、まっ❤︎ そ、こぉっ❤︎」
「ここか」
「ぐりぐ、ぃ、っゃあ❤︎」
「こっちのほうが好きか」
「あぁあっ❤︎」
「こら、前を触るな。分散して気持ちよくないぞ」
「ぉ❤︎ ちしぃ、きもちぃ❤︎」
「気持ちいいな。雄大は出来る子だから、触らなくても出せるだろう?」
「やああ❤︎ でにゃい❤︎ でにゃいからぁ❤︎」
「嘘だな。ほら、もうとろとろだ」
「うううう❤︎ もうやあ❤︎」
「嫌じゃないだろう? ほら、気持ちいい、な?」
「ひぅ❤︎ 気持ち、ぃ❤︎ いぃかりゃぁ❤︎」
「いい子だ。気持ちいいな」
「も、むぃ❤︎ でちゃ❤︎ でりゅ❤︎」
「よし、いい子だ。全部出そうな」
ぐい、ととどめをさすように捻りこまされたエネマグラが前立腺を押す。腹からの気持ちよさに、巣鴨は眦から涙をこぼして、飲みこめない涎を垂らして陰茎から白濁した精液を吐き出す。
最初こそ勢いのあった射精だった。しかし、もう出ない、と息も絶え絶えに訴える巣鴨に、全部出せてないだろう、と晶はヒューズが飛びかけたような状態の巣鴨の前立腺を虐める。でない、と呂律の回らない舌で訴えようとする前に、目の前が白くスパークするような快楽が巣鴨の脊髄を走る。
ぶぴゅ、と押し出されるように吐き出された精液を見て、晶はエネマグラを引き抜いてやる。かけていた避妊具を捨てながら、もっと気持ちよくなりたいだろう、と荒い息を吐いている巣鴨の耳に流し込む。言葉にならない言葉を吐いて、抜けない快楽に身を震わせている彼を見下ろして晶は自室に向かう。興が乗ったのもあり、自分の部屋からプレイグッズを取りに向かうためだった。