title by OTOGIUNION(http://otogi.moo.jp/)
「ええと、まずは型に紙を……これよね? 敷いて……それから、牛乳と無塩バターはレンジで加熱……ええと、加熱時間は?」
「私がやろうか?」
「……お願いしてもいいかしら」
「……卵黄と卵白は混ざらないようにするんだけど、それも私がやったほうがいいかな?」
「……そうね……お願いしても、いいかしら……?」
「もちろんさ」
君と料理を作るんだもの、なんだってやるよ。
ニコニコ笑いながら、ヴィンチェンツォは電子レンジで牛乳を加熱して、無塩バターを軽く温める。その手つきは慣れたもので、彼が料理だけでなく製菓も作ることがよく分かる。卵黄と卵白を彼が分けている間、絢瀬は他の材料の計量をする。細かく、きっちりと測ることは絢瀬が得意とするところだ。
卵黄と卵白を分け終えたヴィンチェンツォが、ねえ、と絢瀬の肩をトントンと叩く。グラニュー糖を測り終えた絢瀬は、どうしたのと尋ねる。
「絢瀬、メレンゲ作ってみる?」
「大変じゃない?」
「そんなことないよ。ボウルに卵白を入れて、電動ミキサーで泡立てるだけだよ。グラニュー糖は私が適宜入れるし、やってみない?」
「そこまで言うなら……失敗しても文句言わないでね?」
「それもまた手作りの醍醐味じゃないか」
水分の一滴もついていないボウルに卵白を移していた彼は、絢瀬に電動ミキサーを手渡す。スイッチを入れてぐるぐるとおっかなびっくり混ぜていくと、白っぽくなる。
ツノが立ち始めた頃、ヴィンチェンツォがグラニュー糖を分けながら入れ始める。しっかり混ぜるんだよ、という彼の言葉に頷きながら、絢瀬は真剣な目でツノが立ち始めたメレンゲをさらに混ぜる。グラニュー糖を全部入れ終えた頃には、しっかりとしたメレンゲがてきていた。
絹のようにピカピカなメレンゲに卵黄を入れて、ヴィンチェンツォはまだいけそうかい、と尋ねる。お菓子作りはほとんどしない――不器用ゆえに計量以外で手伝うことをしない絢瀬からすれば、予想以上に労力が必要で、苦笑しながら彼女はヴィンチェンツォにミキサーを手渡す。
「お菓子を作るのって大変なのね。パティシエってすごいのね」
「意外と体力を使うでしょ?」
「本当ね。売り物の値段があんなにするのも、これだけ疲れるんだもの。頷けるわ」
「ミキサーは私がやるから、薄力粉をふるっておいてくれるかい?」
ヴィンチェンツォはミキサーを高速で回転させながら、メレンゲと卵黄を混ぜ合わせる。三分ほど混ぜたら低速に切り替えてさらに二分だよ、となんでもないようにいう彼に、薄力粉をふるいながら、絢瀬は本当に体力仕事ね、と困ったように笑う。
薄力粉をふるい終えた彼女は、バターと牛乳を混ぜて温めていたそれに、バターの油分の膜ができていることに気がつく。ヴィンチェンツォにそれを報告すると、五秒温めて、と指示が飛んでくる。言われた通りに温める。その間にもヴィンチェンツォは、絢瀬が先程ふるい終えた薄力粉を数回に分けながらメレンゲと卵黄を混ぜたクリームの中に入れ、泡立て器でかき混ぜている。
「この牛乳はいつ入れるのかしら?」
「粉が混ざり切ったらだから……今いれていいよ」
「いくわよ?」
「どうぞ」
牛乳バターを生地に混ぜていく。メレンゲの泡が潰れないようにかき混ぜて、絢瀬が紙を貼った型に流し込む。とんとん、と台の上に落として空気を抜く。
「予熱までしてくれたんだ。絢瀬はやっぱり気がつくよね」
「そうかしら? 普通じゃない?」
「そんなことないよ。だって私、焼く段階になってから、予熱してないことに気がつくこと、そこそこあるよ?」
「あら……なら、役に立てたようでなによりだわ」
オーブンレンジに型を入れて、三十分焼き上げる。その間に道具を洗い始めるヴィンチェンツォに、やれることはあるかと絢瀬は尋ねる。代わりに洗い物をしてくれるか、とヴィンチェンツォに言われていいわよ、と二つ返事で答える。
絢瀬に洗い物を任せた彼は、冷蔵庫から生クリームを取り出す。
「クリスマスケーキはやっぱり生クリームたっぷりがいいよね」
「胸焼けしそうだわ。あんまりいっぱいはいらないわよ」
「じゃあ、甘さ控えめにするよ」
「そうしてくれる?」
「いっぱい作ってもいい?」
「ダメって言っても、いっぱい作るんでしょう?」
「ふふ、バレてた」
砂糖をレシピよりも控えめにしながら、ヴィンチェンツォは別のボウルに生クリームと砂糖を入れると、泡立て器でかしゃかしゃと混ぜ始めるのだった。