title by OTOGIUNION(http://otogi.moo.jp/)
「あら、今日はメイプルシロップなのね」
「たまにはね。ハチミツも好きなんだけれど、今日はメイプルの気分なんだ」
「いいんじゃないかしら。わたしはハチミツにしようかしら」
「いいね。何枚焼こうかな」
「あんまりたくさんはいらないわよ?」
「おかわりしたくなるかもしれないだろう?」
ふわふわのパンケーキは、それだけでたくさん食べたくなるんだからさ。
そういうとヴィンチェンツォは、たっぷりと用意した生地をフライパンに流し込む。あれ欲しいよね、という彼に、どれかしら、と返す絢瀬。
「ガットのさ、かわいいあれ。この間、百円ショップで見かけたんだ」
「ああ、ガットのね。ああいうの、ガットの物が多いけど、イメージ的に作りやすいからかしら。カーネとか、オルサキォットとかよりも見る気がするわ」
「カーネもオルサキォットもかわいいけど、ガットのほうが日本人的にかわいいからじゃないかなあ」
私はカーネのほうが好きだけど。そう言いながら、ヴィンチェンツォは片面が焼けたパンケーキをひっくり返す。もう片面を焼き上げながら、絢瀬はずいぶんふっくらしているのね、とパンケーキを見る。
彼女が指摘するように、普段のパンケーキよりもずいぶん膨らんでいるように見える。対面式のカウンターキッチン越しにふかふかのパンケーキを見た彼女は、お店のものみたい、と笑う。
「豆腐をね、ペーストにして入れてみたんだ。なんでもふっくらするし、食感も変わるらしくてさ」
「あら、そうなのね」
「マヨネーズでもいいらしいんだけど、食感が微妙だって聞いてさ。なら豆腐を入れた方がいいなって」
「ふうん……マヨネーズでも膨らむのね」
「グルテンを脂で溶かすらしいよ。詳しいことは分からないけど、いろんなやり方でふかふかのパンケーキって作れるんだねえ」
「そうね。お店のものみたいに、ふっくらしたパンケーキが家でもできるなんてね」
一枚焼けたよ、と皿に乗せたそれをヴィンチェンツォは絢瀬に手渡す。ふかふかに膨らんだパンケーキを受け取りながら、絢瀬はこんなに膨らんでたら一枚で十分だわ、と笑いながらダイニングテーブルに乗せる。
もう一枚焼きながら、本当に一枚でいいの、とヴィンチェンツォは尋ねる。
「私、二枚……いや、三枚くらいほしいかな……」
「あなたって、本当によく食べるわね……」
「アヤセももっと食べなよ。せっかくのパンケーキだよ?」
「これでも前より食べるようになったわよ」
「たしかにそうかも?」
ジャポネーゼの女の子は細いから不安になるんだよね。そう言いながら、ヴィンチェンツォは新しく焼き始めたパンケーキをひっくり返す。綺麗な焼け目がついているそれは、見ているだけで食欲をそそる。
そう言えば、と絢瀬は口を開く。
「このあいだ、駅ナカのテナントにパン屋が入ったのよ」
「へえ。前にカレー屋さんがあったところかな」
「そうね。そこのパン屋、ガットの形をした食パンが売られてたの。びっくりしちゃったわ」
「へえ! かわいいね。私も見たいし、あとで買いに行こうよ」
「言うと思った。いいわよ、行きましょう」
「ガットの形をしたパンなんて見たことないよ。どんなパンなんだろう……あ、そうだ。ついでにいつものケーキ屋さんでケーキも買いたいな。あの、タヌキのケーキ」
「あなた、本当にあのケーキが好きね?」
「おいしいじゃないか」
何より手ごろな価格なのも素敵だよね。
そう言いながらヴィンチェンツォは二枚目のパンケーキを皿に乗せて、三枚目には少し足りない生地をフライパンに流し込む。
三枚目は小さくなりそう、としゅんとした彼に、タヌキケーキのために胃を開けておけってことじゃない、と絢瀬は笑って告げるのだった。