アオキはこたつに姿を変えたローテーブルに足を入れていた。でん、と山、と盛られた薄くスライスされ、油で揚げられたお手製のポテトチップスを前にしていた。塩をしっかりとまぶされたそれは、隣に座るペパーが張り切って作ったものだった。当の本人は目線をそらしているのだけれども。
揚げたてのポテトチップスを一枚つまみあげたアオキは、それを口に運ぶ。ぱりぱりに揚げられたそれは、口の中で熱さと塩っぽさを主張しながら噛み砕かれる。うまいです、とアオキが飲みかけのビールを口に運びながら伝えれば、そりゃよかった、とペパーはほっとした様子で顔を綻ばせる。
「チリさんからさ、アオキさんがすげえ量のポテト食ってるの送られてさ。ちょっと悔しくなったんだよな」
「ああ……ブルーベリー学園の特別講師の件ですか……」
「そうそう。あの量のポテトを延々食ってるアオキさんもかわいいんだけど、どうせならオレの飯で腹膨らませてほしいっていうか……ああ、いや、今のナシ!」
「かわいらしい嫉妬ですね」
「ナシっていったじゃんかよ!」
「安心してください。あの学園の料理は味付けがだいぶ大雑把で油っぽいものが多いので、あのフライドポテトを食ったあと、あなたの作った食事が恋しくなりましたので」
「本当ちゃんか?」
「本当です。パルデアに帰って一番うれしかったのは、あなたの作る食事が食べられることですね……新しいチャンピオンにも困ったものです」
「はは……ハルトにはあんまりアオキさんをこき使ってやるな、って言っておくからさ」
オレのポテトチップスもうまいだろ、と胸を張っていうペパーに、アオキはうまいです、とかぶせるように言う。ビールで押し流しながら、次から次へと手製のポテトチップスをかじる。酒のつまみすらうまいので太りそうです、と告げる彼に、アオキさん痩せてるじゃんよ、とペパーはじとっ、とした湿度の高い目で見る。
毛づくろいをしていたウォーグルが、興味津々の顔でアオキの手元に近寄ってくる。彼に一枚薄切りのポテトを差し出すと、ふんふんと確認してからぱりぱりと口に運ぶ。ウォーグルは一枚食べると興味を失ったように背を向けていく。代わりにノココッチの女の子が近寄ってくる。ウォーグルと同じように一枚薄切りのポテチを差し出せば、彼女は大きな口を開けてぱりぱりと咀嚼する。どうやら、彼女のお気に召したようでもう一枚ほしいと言わんばかりに、アオキの足に体を乗せている。
「ノココッチもご満足のようです。おいしいですからね」
「そりゃよかった。ノココッチもいっぱい食べていいからな」
「のっぷ!」
「自分の分は残しておいてください」
「のぷ?」
「はは。アオキさんのポケモンも食いしん坊ちゃんが多いからなぁ」
「一体誰に似たんでしょうか……食費がかさみますね」
「アオキさんじゃねえの?」
「そうでしょうか」
「そうだって」
そんなやりとりをしながら、ペパーはアオキにもう一本缶ビールを開けるか尋ねる。アオキは少しばかり――彼にとって本当に少しの時間考えたあと、いただきます、と言う。言いながらしっかりノココッチの口にポテトチップスを放り込む。
ペパーが冷蔵庫にある缶ビールを取りに行く間に、アオキは自分の口にもポテトチップスを運ぶ。あつあつの温度はなくなったが、しっかり油を切ってあるからか、ぱりぱりの食感だけが口に残る。ノココッチも食べやすい温度になったからか、さきほどよりも食べるスピードが上がっているようにすら思う。
一匹と一人でばりばりもぐもぐむしゃむしゃとポテトチップスを食べていると、口に運んで噛み砕いて次を口に運ぶ速度が早いのか、みるみるうちに山と積み上げられた揚げられたじゃがいものスライスがなくなっていく。あっという間になくなってしまったポテトチップスを残念そうに見るアオキに、ペパーは缶ビールを持ってきて、もうなくなっちまったのか、とぎょっとしている。
「うまかったので……」
「のぷぷ……」
「そんなにしょんぼりするなよ。今日はもう油しまっちまったし、じゃがいももないから作れないけど、明日また作ってやるからさ」
「本当ですか」
「のぷ!」
「本当だっての。そんなに喜んでくれるなら、いくらだって作るって」
正直、カントー風のお正月料理より喜ばれたのはちょっとショックだけど。というペパーに、アオキはたつくりと伊達巻うまかったです、と思い出すように顎を撫でながら返事をする。黒豆もちゃんと作ったのに、という彼に、うまかったです、とアオキは頷く。何食ってもうまいちゃんかよ、とペパーはぶすっと頬をふくらませる。
「アオキさん、ぺろっと全部食べちまうんだもんな」
「それだけうまいということで……」
「早食いの大食いは太るはずなのにな」
「これでも、ペパーさんの料理を食べるようになってから、リーグの健康診断で体重が増加したと指摘されました」
「それでも痩せてるじゃんよぉ。アオキさんの食いっぷりにつられて、オレの方は太ったっていうのに」
「ペパーさんはそのぐらいでちょうどいいかと」
痩せているよりもふくよかな方が健康的ですよ。と、少し的はずれな褒め方をするアオキに、ペパーは明日からダイエットするか、と明日の夕飯の献立を今から脳内でひっそりと考え始めるのだった。