title by そにどり(http://nightjarxxx.web.fc2.com/)
「絢瀬、ヴィンスくん呼んでおいで」
祖母に呼ばれた絢瀬は、不思議そうに思いながら、タライに水を張っているヴィンチェンツォを呼びに行く。
金タライに水を張り終えたところらしいヴィンチェンツォが、両手にタライを持っていたところに訪れ、祖母が呼んでいることを告げると、なんだろうね、と彼も不思議そうだ。
金タライに大玉のスイカを入れて縁側に運ぶ。隣の安藤さんが親戚からもらってきたと言うそれは、なかなかに大きい。絢瀬とヴィンチェンツォ、そして絢瀬の家族で割って食べればちょうどいいくらいだ。そもそも妹の奈々美はあまりスイカを食べない。
「おばあちゃん、呼んできたわよ」
「おお、助かったねえ。ヴィンスくんや、あれをとってくれんか?」
「あれ? 棚の上の箱かい?」
ヴィンチェンツォが食器棚の上に置かれている、小さな古ぼけた段ボールを指さす。そうそう、と祖母が頷くと、彼は任せてよ、と箱を持ち上げる。二メートルもある巨体の特権だろう。棚の上のものを取るのは、自宅にいてもヴィンチェンツォの仕事だ。
はい、と祖母に箱を手渡す。埃を払って渡したそれを、ありがとうねえ、と言いながら彼女はテーブルに置く。
からん、と麦茶の入ったグラスが音をたてる。箱を開けると、出てきたのはくすんだ青色のかき氷機だった。
「かき氷ね」
「うんうん。最近暑くてねえ。シロップも買ってきたでね、絢瀬ちゃんもヴィンスくんも好きなだけ食べてええよ」
「ありがとう。夏のたびに見るけど、かわいいデザインだよねえ、これ」
レトロなデザインのそれは、真ん中に大きく赤色で氷と書かれている。昭和のデザインのそれは、流行りのレトロデザインのもので、手回し風にみせて電動式だ。
氷とってくるよ、とヴィンチェンツォは氷を入れる容器を片手に、ウキウキで冷凍庫に向かう。あまりにも楽しみなのが伝わってくる様子に、絢瀬と祖母は笑ってしまう。
シロップはどこだい、という声に冷蔵庫だよ、と祖母が教えてやる。緑色のメロンシロップと赤いイチゴシロップと氷を入れた容器を持ってヴィンチェンツォは戻ってくる。ガラスの器も、スプーンも三人分用意してきたのはさすがだろう。
「はい。持ってきたよ」
「ありがとうねえ。あらま、皿まで。気が利くねえ」
「ヴィンスはそういうところ、よく気がつくわよね」
「ふふ。早く食べたかったからね」
「ありがとうねえ。作ろうかね」
ヴィンチェンツォが容器をセットすると、ぱちんと祖母はスイッチを入れる。がりがりがりと氷が削られる。ガラス皿に削られた氷がぱらぱらと乗っていく。
ある程度氷が乗ると、スイッチを切って別の皿を乗せる。最初の皿はヴィンスくんね、と祖母が渡すと、彼はいそいそとシロップをかけ始める。
「あんまりかけると、また虫歯になるわよ」
「そんなにかけないよ、大丈夫」
「あんれま、ヴィンスくん虫歯になったのかい」
「違うよ、もう治ったよ」
「それはなったって言ってるようなものよ」
「……あっ」
照れ臭そうにヴィンチェンツォは頬をかく。その手に握られているのはメロンシロップだ。さっ、とメロンシロップをかけた彼は、少し物足りないと思ったのか、もう少しかける。
はい絢瀬の、と渡されたガラス皿に、絢瀬はイチゴシロップをかける。山の頂点が少し赤く染まる程度にかけた彼女に、ヴィンチェンツォは物足りなくないのかい、と尋ねてくる。
「このくらいで十分よ?」
「そうかい?」
「絢瀬、シロップちょうだいよ」
「あ、うん。はい、おばあちゃん」
す、とイチゴシロップを渡した絢瀬に、祖母はぐるりとシロップをかけた。