「まだ少し早かったかな」
「そうね。まだ寒くなってきて、まもないからかしら」
「ああ、それはありそうだね。もう少し寒くなってからだと、スノータイヤか……」
「もうそんな季節なのね……今年は暑い時期が長かったから、違和感があるわね」
紅葉を見に行こう。そう言ったのはどちらだったかはあまり関係がない。二人の視線はフロントガラスから見える山を見ていた。檸檬色にすらなっていない広葉樹たちは、薄くどことなく秋めいた色はしている。それでも檸檬や橙の目にも鮮やかな色にはなっていなくて、紅葉を見るためのドライブデートにしては少々残念だ。
残念だったねえ、とヴィンチェンツォは唇を尖らせているが、また来る口実ができたじゃない、と絢瀬はくすくす笑うばかりだ。その彼女にちらと視線を移して、彼はそれもそうだねと返す。
「次のドライブデートは冬かな? 雪は得意じゃないけど、雪景色は嫌いじゃないんだ」
「いいわね。その時は旅館がいいわね。温泉付きの」
「いいね! おいしいご飯と温泉を楽しんで、エンガワでのんびり過ごそうよ。日本庭園があるところだといいなあ」
「ふふ、いいわね。そうなると……年明けになるのかしら」
北の方の雪っていつまであるのかしら。
そう微笑んだ彼女に、さすがに二月ならあるじゃないかな、とヴィンチェンツォは返す。二人とも都会に住んでいて、雪とは縁遠い生活をしているものだから話が弾む。素敵なところを予約しよう、とうきうきしているヴィンチェンツォは、追い越し車線から抜かしていく車を見ながら楽しそうだ。
「楽しそうね」
「君と一緒なら、なんでも楽しいよ」
「本当、そればっかり」
「だって事実だもの」
「そう? まあ、わたしもそうだからいいけれど……」
「ふふ、お揃いだね」
カーナビが合成音声でしばらく直進だと再度告げる。何キロも直進を続けているから、そろそろ休憩がしたいヴィンチェンツォは、次のサービスエリアでご飯にしようよ、と提案する。
その提案に乗った絢瀬は次は運転するわよ、と告げる。君の運転好きだよ、とヴィンチェンツォはサービスエリアの看板をチラと見て言う。
サービスエリアにつながる道に車を乗せる。駐車場に入れば、それなりの数の車が停まっている。休日のサービスエリアならそんなものだろう。たまたま空いていた場所に滑り込み、車を停車させる。シートベルトを外して、ヴィンチェンツォはついでにプランゾにしようよ、と提案する。
「そうね。先にご飯にしましょうか」
「うん。私、サービスエリアのご飯好きだよ。ハズレがないよね」
「たしかに。どこで食べてもおいしいわね。目立ってまずいなんてことはないわね」
「凄いことだよね」
楽しそうに弾んだ声で話す彼の手を握りながら、絢瀬も跳ねるような声色で何にするの、と尋ねる。
「やっぱりカレーかなあ。どこにでもあるし」
「本当、あなたサービスエリアにくるとカレーばっかり」
「おいしいもの。そういうアヤセだって、いつもうどんじゃないか」
「食べやすいもの。仕方ないわよ」
「たまに大きな器できたりしてね」
「あれは困るわね。食べ切れるのかヒヤヒヤしちゃう」
「大丈夫。私が食べきってあげるから」
にこにこ笑うヴィンチェンツォに、頼りになるわね、と絢瀬も釣られて笑う。フードコートに足を踏み入れた二人は、食券機を見る。千円札しか使えないタイプのもので、財布を開いたヴィンチェンツォが、崩してくるよと肩をすくめる。
先に選んでいていいよ、と言われた絢瀬は改めて食券機を見る。小さく写真がついているが、そこからは器の大きさは今ひとつ掴めない。諦めて、絢瀬は食券機に千円札を滑らせて、きつねうどんの券を取る。
ペットボトルの水を買ってきたヴィンチェンツォが、彼女の手元を見て、またきつねうどんだ、とくすくす笑う。メニューを見ることもなく、カツカレーを選んだ彼に、あなただってそうじゃない、と絢瀬もからからと笑うのだった。