「……はあ。なるほど、理解に苦しみますね」
「どういうことなんだよ……」
「看板に書いてあることを試してみないと出られない部屋ですか。あまりにも理解に苦しみます」
「でも、他に出られそうな場所は探したけど見当たらねーしなあ……」
一通り真っ白い――ただただ白いばかりで何もない部屋の真ん中で、アオキとペパーは途方に暮れていた。二人の目の前に置かれているローテーブルの上には、十本の栄養ドリンク程度の大きさの瓶が並んでいる。茶褐色のそれらには、でかでかと手書きされた文字が書かれている。のんでね! と書かれたそれは、あまりにも、あまりにもチープで――飲んでいいのかためらってしまう。
これみよがしにクイーンサイズのベッドが置かれている。どういう風の吹き回しだ、とアオキは呆れる。飲みきらないと出られないよな、とペパーは観念した様子でチョコレートドリンクの小瓶に手を伸ばしている。
「飲むつもりですか」
「え? だって、飲まないと出られないんだろ? それじゃあ、飲むしかないちゃんだぜ?」
「それはまあ……そうですが……ん?」
「どうしたんだ? アオキさん」
「いえ……あの看板、小さく文字が……」
「文字?」
二人が立て看板がかけられているそこをよくよく見ると、そこには小さな文字で「一人最低三本は飲まないと罰として二倍の二十本♡」と書かれている。見落としてしまうようなフォントサイズで書くな、契約書かよ、とアオキは内心ツッコミを入れてしまう。その文字を読んでしまったペパーは、オレが七本飲めばいいんだな、と覚悟を決め始めるものだから、アオキは君が三本です、とすぐさま訂正をする。体にどんな作用があるかわからないものを、恋人に飲ませられないと考えるのは当然のことだった。それは、ペパーからしてもそうだった。
お互いに引けないものがある――それを無言のうちに察した二人は、ローテーブルの上に並んだ小瓶を一つずつ手に取る。きゅぽ、とアルミキャップの蓋を外す。ぐ、と一息に煽れば、喉を焼くように甘ったるい味が口いっぱいに広がる。その甘さに眉をしかめながら、アオキは次の小瓶を手に取る。必要本数だけペパーに飲ませるだけにするためには、自分が一秒でも早く飲まなくてはいけないのだ。それはそうとして、水か何かで喉をさっぱりさせたい。
五本を飲み干したあたりで、アオキは自分の体がいやに熱っぽいことに気がつく。それは体調不良のときのだるい熱っぽさではなく、どちらかといえば、夜の気だるい熱っぽさだ。なんなら、下半身により熱が集まっているような気がする。そこまで考えて、このチョコレートドリンクによからぬ何かが混ざっているのではないか、と思い至る。飲むしかないから飲んでいるが、よくよく考えなくても、まあ、なにかしらの作用があってもおかしくはない。
そんなことを考えていると、ことん、と小さく、それでいて大きな音を耳が拾う。隣でチョコレートドリンクを飲んでいたペパーが、小瓶をテーブルに置いた音だった。彼の手元には、すでに四本のドリンクの小瓶が殻になって置かれている。はあ、と熱っぽいため息を付いたペパーは、なんか暑い、というと着ていたシャツのボタンを開け始めていた。
あまりにも目に毒な光景で、アオキは目線を吸い寄せられてしまう隣の光景から目をそらすように、残っているチョコレートドリンクを一気に飲み干す。合計六本飲み干したアオキに、ペパーは気がついていないらしい。何も言われなくてよかった、とアオキが思っていると、がちゃん、と背後から音がする。二人が振り返れば、背後には木製の扉が出現していた。先程まではなかったその扉に、たしかに看板にかかれていた内容をクリアすれば問題なく開くのだな、と熱に浮かされたようにどろどろとまとまらない思考でアオキは思う。
ペパーは熱っぽそうな顔をアオキに向けると、ふにゃん、と溶けた顔で出られそうですよ、と嬉しそうに扉に近寄ろうとする。それを制したのはアオキだった。
「アオキさん……?」
「ペパーさん。その顔で外に出られるのは、自分が困ります。あやうく犯罪者になりそうです」
「へっ!? ど、どういう……」
「こういう、ことですね」
そう言うと、アオキはペパーに自身の下半身を押し付ける。熱っぽかったものの正体は、情欲の熱だ。チョコレートドリンクのラベルを剥がして確認する気も今は起きないが、きっとどうせ、そんなことが書かれているのだろう。
とまどったのはペパーのほうだ。アオキの熱で、体に滞留していた熱の正体を察したらしく、かあ、と顔を赤くしている。そんな彼の困惑などよそに、アオキはペパーをクイーンサイズのベッドに押し倒す。まるでこのためだけに用意されていたようなベッドに、用意周到すぎるとアオキは熱で浮かされた頭で思う。ぷちぷち、とかろうじて、どろどろのチョコレート程度には残っている理性でペパーのシャツのボタンを外す。もういっそ、シャツのボタンなど引きちぎってしまいたかった。ベルトをガチャガチャと外して、スラックスを脱がせる。ボクサーパンツにシミを作りながら、まだ初々しい花が芯を持っているところだった。
ボクサーパンツを脱がせれば、ぷるんと花芯が揺れる。とろとろと密をこぼしている薄桃色の肉色をしたそれは、欲望を吐き出したくて仕方がないと主張をしている。それをよそに、アオキは自分のスラックスとボクサーパンツを脱ぎ捨てる。すっかり赤黒いそれは熱を持って天をついている。
ペパーをベッドに転がしたまま、自分のものとペパーのものをまとめてアオキは大きな手のひらで握る。上下に手をスライドさせて刺激すれば、よからぬチョコレートドリンクのせいで熱を持っていたそれはすぐに白い欲をペパーの腹の上に吐き出す。二人分の精液を腹にかけられたペパーは、荒い息をまとめるようにふーっ、と息をついている。
「まだ収まりませんね……どうでしょうか。ここですっきりさせていく、というのは」
「も、もう出られるんだし……それに、扉開いてるんだから、もしかしたら誰かが来るかも……」
「誰かが来るなら、もっと早くに来るでしょう。それこそ、閉じ込められたときにでも。大丈夫ですよ、きっとここには誰も着ません」
「で、でも」
「……嫌がる割に、ペパーさんのここは咥えたいと言っているようですが」
「ンッ」
ペパーの割れかけた穴に中指の指先を入れたアオキは、鉤爪のように指を曲げて中を刺激する。びくん、と腰を跳ね上げさせたペパーに満足したアオキは、ベッドのヘッドボードの上に用意されていたカゴに手を伸ばす。そこには、お誂え向きに用意されている使い切りのローションのパウチと避妊具があった。当然、避妊具のサイズはアオキの愚息の大きさで、新品の箱で入っていた。
チョコレートドリンクがどこまで性欲を高めているか分からないが、とりあえず今は据え膳をしっかりぺろっと平らげてやろう。下腹部からの熱で溶けた理性が、普段は抑えている本能を開放させていた。眼の前で今から食われることに歓喜している恋人も悪い、とついでの責任転嫁も忘れなかった。