こちらの続き
ポケモンリーグパルデア支部はいつだって仕事量が多い。営業だろうがどこの部署だろうが、いつも誰かしら白目を剥いていたりする。
まあそれは言い過ぎとしても、繁忙期になると缶詰になることも珍しくない。ことのほかジムリーダーも兼任している同期に関しては顔色が土気色になるほどだ。新規で営業かけるのは微妙でも、既存顧客のアフターフォローが手厚く、彼に是非、という客は結構多い。そのうえ多言語話者ということもあり、営業に残って欲しい人材――それがアオキだ。
そんなクソほど忙しい繁忙期――アカデミーの宝探しシーズンを終えると、束の間の比較的穏やかな日々が始まる。当然仕事は忙しいが、残業量は目に見えて減る。そういう日にあれこれ買い出しをしたり、ポケモンと戯れることが多い。
そんな休みの日で、外はからりと乾いた洗濯日和。これはピクニックにいくべきだろう。そう考えた俺はピクニックセットを抱えて外に出る。手持ちのパピモッチも久しぶりのピクニックにウキウキしているのか、短いしっぽをぶんぶんと振っている。
チャンプルタウンの外れでピクニックをするためにも、まずはサンドイッチを作るための材料の買い出しだ。気がついたらバゲットがないし、チョリソーしか冷蔵庫にない。バターとマヨネーズは必須だし、あとはハムとたまねぎのスライス、華やかにするためにもトマトスライスも買うべきだろう。
パピモッチを連れてアパートを後にする。お目当ての材料を探しに街を歩いていると、見覚えのある髪色を見つける。普段はオールバックにしているから、一瞬判別がつかなかったが、特徴的な跳ねた灰海色の髪で分かった。同期のアオキだ。隣にいる腕を絡めている女性は覚えがないが、アオキにきらきらとした笑顔をむけている。
太ももまであるニーソックスが食い込んだ脚は、むっちりとしていながら、程よく柔らかそうだ。ニーソックスと溢れた肉の段差は、彼女が健康的なことを示している。
短いホットパンツとニーソックスの隙間に息子を入れたら楽しいだろうな、すべすべしてそうな肌だしな、と下卑たことを考えていると、パピモッチがふに、と足を踏む。そうだね、よくないね。
ホットパンツに包まれたお尻は、それはもう揉みしだき甲斐のありそうな大きさで、こんな素晴らしいケツに顔面を圧迫されてみたいと思わせるほどだ。シャツを押し上げている胸の下、細い腰を掴んでピストン運動したら楽しいだろうよ。分かったから、パピモッチは足を踏むのをやめてくれ。
胸も胸で、片方だけでも小さな彼女の顔よりもありそうな大きさだ。それは腕を絡めているアオキにしっかりと当たっていて、ちょっとそこを変わって欲しいほどだ。
そんなことを考えていると、こちらの視線に気がついた(いや、まあ、ガン見していたんですが)女性がこちらを見る。優しそうな気配は鳴りを潜めて、アオキの腕に胸を押し付けながら、苛ついたような目線をこちらに向けている。えさっきと雰囲気全然違う。警戒心むき出しのオラチフみたいだ。こわ。
対する髪を下ろしたアオキは、こんにちは、と会釈をしてこちらを見る。長い前髪で隠れ気味の目は、何を考えているのかよく分からない。
「こんにちは」
「お、おう。アオキか。髪下ろしてると誰だか分からねえな」
「アオキさん、誰だよ、この人」
「同僚です……営業の」
「ふーん……」
興味なさそうにこちらを見ている彼女の視線は、いまだに鋭い。アオキに見せていた柔らかい雰囲気はどこへやら、だ。それに気がついたらしいアオキが、なにやら背を屈めて彼女に耳打ちをする。それだけで、雰囲気がパッと和らぐのだから、心底彼女もあいつに惚れてるんだろうなあ。どこがいいのか分からないが。
やけにからからに乾いた喉を引き攣らせながら口を開く。第一声は、違和感なく出てきてくれただろうか。
「つか、お前、彼女いたのか。そんな気配微塵もないから、女日照りしてんのかと思ったわ」
「どう思われているんですか自分は……あいにくですが、すでにいますので……彼女は自分には勿体無いほどいいひとですよ。頼まれたってあげませんけど」
女の胸元から腕を抜いたアオキは、近いうちに籍を入れる予定です、と告げながら、彼女の腰を抱く。あまりにもスマートに行われた動作に、悔しいとかそういう感情すら抱けなかった。もう完敗である。一生仲良く過ごしてて欲しい。
今からパピモッチとピクニックするんだ、と告げればこの後天気が崩れそうですよ、とアオキは口を開く。
「雲の流れから見ても、ピクニックをするなら、午前中で切り上げた方がいいですね……」
「マジか。パピモッチぃ、ピクニックはできねえけど、家でサンドイッチ作って食うかぁ」
「もちもち」
「それがいいと思いますよ。では、買い物の途中なので……」
「そうじゃん。アオキさん、服買ってくれるって約束してたもんな」
「そうでしたね。行きましょう」
それでは、と会釈を一つして去っていく。唐突に知った同期の女に、いつの間にあんな上等な女を捕まえていたんだ、と首を捻ってしまう。ジムリーダーもしているらしい(タウンマップ情報でしか知らない。本人は部署のデスクにいたりいなかったりするから、なかなか聞き出すタイミングがない)から、そちらの流れかもしれない。
それにしたって羨ましい。服越しでも分かるほど、男受けは完璧なスタイルだ。下品と美人の黄金比とでもいうのか、俺もああいう女性がいるなら捕まえてみたい。分かったからパピモッチ、足をめちゃくちゃ踏むのはやめて欲しい。
明日の出勤したときにでも、アオキに彼女とはどこで出会ったのか尋ねてみよう。二匹目のドジョッチ狙いだとか言われても構わない。俺だって良い女と出会いたいのだ。