こちらの幕間話
柔らかいシーツの海に押し倒され、絢瀬は橙色に光る豆電球をぼやける視界で見上げながら口を開く。
あら、今日は寝かせてもらえないのかしら。そう絢瀬が口にすると、ヴィンチェンツォは寝る前に運動するとよく眠れるよ、と嘯く。
「ちゃんと歯磨きはしたのかしら。虫歯になったら大変よ」
「安心してほしいな。君が着替えている間に済ませたよ」
「それならよかったわ」
「ふふ、懸念事項が一つ減って良かったよ」
そっちに気を取られて、私を見てくれなかったら寂しいじゃないか。
ヴィンチェンツォは軽い、ついばむような口づけを絢瀬の顔中に降らせる。それを受け止めながら、彼女はそうっと浴衣の帯に手をかける。しゅる、と緩められた帯に釣られるようにして、ヴィンチェンツォが着ている、絢瀬より一回り以上大きな浴衣の前がくつろげられる。空間を切り取るように、絢瀬を囲うように降りた浴衣の布地の下、彼は脱がせないでしたら怒るかい、と尋ねる。
服を汚すのは好きじゃないわ、と絢瀬が返事をすれば、それじゃあしかたないね、とヴィンチェンツォは浴衣から腕を抜く。くっつけられた布団の外に浴衣を放り投げた彼は、絢瀬の帯に手を回すとしゅる、と引き抜く。
「たったこれ一本で服として成立させるんだもの。日本人ってよく考えるよね」
「……そんな殊勝なこと言ってるけど、本心は違うんでしょう?」
「こんなに脱がせやすい格好をされたら、私は気が気じゃないから、隣から離れて欲しくないなあ」
「素直でよろしい」
「ふふ、そうでしょう?」
彼女の体を持ち上げると、腕から抜けた浴衣を引き剥がす。放り投げられた浴衣が、かちゃ、と何かにぶつかる軽い音がする。ちょっと、と絢瀬がその音に反応するが、ヴィンチェンツォはウィンクひとつして、大丈夫だよ、とだけ返す。
「メガネにぶつかっただけさ。壊れてないよ」
「本当に壊れてないでしょうね」
「大丈夫さ。それより君には、私だけを見ることに集中してほしいな」
そう言って、嫉妬しちゃうと言わんばかりの噛み付くような口づけは、すぐに深くなる。呼気すら奪うような口づけの中、ヴィンチェンツォは絢瀬の口内にある舌を捉える。
舌を絡ませあい、呼気を奪い合い、口づけをより深めていく。ふっ、と漏れた呼気がどちらのものかも分からない。
とん、と絢瀬の手が力なくヴィンチェンツォの胸板を叩く。それに呼応するように、ゆっくりと交わっていた唇が離れていく。深く息を吸った絢瀬は、酸素不足で潤む瞳でヴィンチェンツォを見上げる。罠にかかった獲物を捕らえた猟師のように、彼は未だ息をゆっくりとしている絢瀬の肌に触れる。
ショーツだけ残したまま、彼女の乳房に触れる。つん、と立った乳首に唇をあてがう。乳飲み子のように吸い付けば、抑えた嬌声があがる。それがつまらなくて、ヴィンチェンツォは空いている右の乳首に太い指を這わせる。
舌先で弄び、指先で遊ばれ、時に甘噛みをされては、未だ上がった息を整えたい絢瀬としては、たまったものではない。はー、はー、と乱れた息を戻せずに、深く息を吸うタイミングで計ったようにヴィンチェンツォは彼女に快楽を与える。
飽きるまで吸っていた絢瀬の乳首から唇を剥がすと、ヴィンチェンツォの唾液に塗れて、ぽってりとしていた。微弱な快楽で浮き足立っていた状態よりも、深い快楽を感じているのがよく分かる。指先で遊んでいた右の乳首も、ぷっくりと主張を強くしている。
「アヤセのえっち」
「……そんな体にしたのはあなたでしょうに」
「ふふ、そうだった。私以外に見せちゃダメだよ?」
「あなた以外に見せる日がくるのかしら?」
「そんな日は絶対に来ないよ」
クロッチの部分がすっかり濡れぼそっているショーツを脱がしながら、ヴィンチェンツォはうっすらと笑う。いつもの快活な笑顔ではないというだけで、随分と雰囲気が変わるものである。
クロッチと秘裂を繋ぐとろりとした愛液に、自分の愛撫で感じている彼女を嬉しく思うヴィンチェンツォ。それだけで下着の中に収めている愚息が、早く解放しろとせっついてくる。
絢瀬のほっそりとした脚からショーツを剥ぎ取り、ヴィンチェンツォは自身のボクサーパンツを脱ぐ。すっかり臨戦態勢のそれは、早く恋人の胎におさまりたいと訴えているが、彼は避妊具をつけないとね、と用意しておいた小さなパッケージを破り捨てる。
破り捨てられたパッケージをちらと見ながら、それが自宅で使っているものだと分かった絢瀬は、昨日用意している時は見なかったぞ、と彼の用意周到さに呆れる。
「準備がいいわね」
「君だって期待していたろう?」
「してない、って言ったら嘘にはなるわね」
「素直じゃないなあ、もう」
いきりたった肉棒に薄いラテックスのそれを被せると、絢瀬の秘裂にヴィンチェンツォは軽く指を這わせる。指を食みたいとひくつくそこに、膨張した怒張がおさまるまで、少しの余裕もなかった。
ふー、と少し息を吐いたヴィンチェンツォは、ねっとりと熱い秘裂に先を咥えさせる。ん、と絢瀬が息を吐くとほとんど同時にヴィンチェンツォは腰を進める。腰骨がぶつかるような錯覚すら覚えながら、絢瀬は胎にある熱いそれを締め上げる。
きゅう、と締め付けるように狭くなるそこに、暴発しそうだと思いながら、ヴィンチェンツォは最奥までゆっくりと腰をすすめる。長大なそれを胎に全て収めるのは骨が折れるが、最奥を小突いた時の彼女の反応を思えば大したことではない。
ゆっくりと、焦らすように最奥を突かれた絢瀬は、鼻から抜けるような高い声を上げる。んあ、と快楽に濡れた声に気分を良くしたヴィンチェンツォは、ここだよね、と言いながら絢瀬が感じるところをえぐる。
カリで抉るように削るように擦られるだけで、絢瀬は高い声を上がる。仰反り首を逸らす彼女の体を抱きしめながら、ピストンの抽送を繰り返す。
「あ、ま、そこ……」
「ここだよね、分かってるよ」
静止の声だったかも知れない絢瀬の言葉を、続きを促す言葉だと解釈しながら、ヴィンチェンツォは最奥を抉るように強く腰を打ち付ける。その動きに合わせるように、絢瀬の秘所からはとろとろと蜜を溢れさせる。
びくり、と快楽を逃すように脚を震えさせる絢瀬を見て、彼はそろそろ達するだろうと察する。それを見越して、一緒がいいね、と形のいい彼女の耳に吹き込む。ついでに甘噛みすれば、何もかもが快楽に変換されているらしい絢瀬は甲高い叫び声を上げて体を震わせる。
達する時に、ぎゅうぎゅうと中を搾り取るように締め付けてくるものだから、ヴィンチェンツォも耐えきれずにラテックスの中に欲を吐き出す。びゅくびゅくと一枚の薄皮越しに吐き出される熱を感じながら、絢瀬はだるい腕を動かしてヴィンチェンツォの分厚い背中に腕を回した。
きゅ、と回された腕の温かさが優しくて、愛しくて、膣から引き摺り出した自身の海綿体に血流が集まるのを感じるヴィンチェンツォは、もう一回ダメかい、と彼女が弱い笑顔で尋ねることにした。