title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)
ツイッターをはじめとしたソーシャル・ネットワーキング・サービスを時折見る巣鴨雄大は、勢いで買い物をすることがままある。大抵はささやかな物を買う程度であるから、ちょっとした失敗談として話のネタにする程度だ。
今回も、そんなネット通販の失敗のひとつだった。いや、ある意味では成功談かもしれないが。
「……それを普通に着ちゃう晶ちゃんも晶ちゃんだよなあ……」
若干の遠い目をしながら、巣鴨はキッチンに立つ晶を見る。巣鴨よりも体格のいい晶は、作り置きの惣菜を作るためにフライパンを振るっている。そんな彼女が着ているのは、巣鴨がハンドメイド作品を販売する通販サイトで買ったTシャツだった。
それは胸元にゆるいキャラクターたちが描かれたもので、中央のキャラクターがちやほやされたい、と叫んでいるものだ。面白いと買ったはいいが、自宅で着たならば晶に甘やかされそうな気配が濃厚で(どうにも、彼女はそういう甘やかしをするところがある。本気かどうかが分かりにくいのが少し困るところだとは巣鴨の言葉だ)かと言って職場に着ていくには躊躇う程度には彼にも自制心があった。
そうして放っておいたら、いつの間にか晶の手に渡っていたらしい。筋肉でできた胸元にしっかりと張り付くシャツに、オーバーサイズのシャツにするべきだったかも、と関係ないことを考えてしまう。
じっ、と見ていたからか、粗熱を取ったおかずをタッパーに詰めた晶が振り返る。
「どうした」
「え? ああ、うん。そのシャツさ……」
「ああ、これか。勝手に借りたぞ」
「それはいいけど、よく着たね……?」
「? 普通のTシャツだろう」
「いや、まあ、うん。そうなんだけどさ」
「変なことを気にしているな」
「ああー……まあいいや。晶ちゃんが気にしてないならいいや。それより、何作ってたの?」
いろいろと言いたいことはあるが、改めて言うことを辞めた巣鴨は、話の向きを切り替える。急激にそらされた話題に首をかしげつつも、晶はさして興味もない(彼女からすれば、大半のことは興味関心が無いことなのだが)話よりも、振られた新しい話題についていく。
「鶏もも肉とキャベツのニンニク炒めと、キャベツと豚こま肉の生姜炒めだが」
「おいしそうだ!」
「今日は塩鮭だ」
「おしゃけもおいしいよね。この時期は脂が乗ってる、って言うのかなあ」
炊き立てのご飯に鮭を乗せたら、たくさん食べちゃうよね。
口の中が塩鮭でいっぱいなのか、頬が落ちそうな顔をする巣鴨に、まだ三時だぞ、と晶はその頬を摘む。彼女からすれば本当に落ちるかもしれない、と思ってつまみあげたのだが、そんなことつゆ知らない巣鴨は伸びないよ、と笑うばかりだ。伸ばしているわけではないのだけれども、と思いつつも晶は冷凍庫から凍り付いている鮭を取りだそうと頬から手を放した。
「塩鮭っていうとさ、実家だとよくジャガイモと一緒に出てきてたなあ」
「じゃがいもか」
「そうそう。母ちゃんがジャガイモと一緒に炒めてたんだよね。醤油とバターでさ」
「それはうまいだろうな」
「おいしかったよ、もちろんね! 組み合わせがそもそも完璧だもん。醤油とバターでジャガイモでしょ? ジャガバターじゃん!」
本当に美味しかったのだろう。飛び跳ねんばかりに喜びを伝えてくる彼を微笑ましく見ながら、常温保存のできる場所にじゃがいもは入っていただろうか、と晶は常温保存の野菜たちをまとめて入れている箱をあける。そんな彼女をみた巣鴨は、もしかして、と一緒に野菜箱をみながら尋ねる。
「作る? 鮭のジャガバター炒め」
「旨いんだろう。作ってみたいと思う」
「やった!」
「ジャガイモが見当たらないから、買うところから始まるが」
「じゃあ、一緒に買い物行こうよ!」
ついでに足りなくなりそうなものも買ってさ。
楽しそうにふにゃふにゃと笑う巣鴨に、財布をとってくると晶は宣言して形の良いピンクブラウンの髪をひとつ撫でてやる。充電してるスマホとってこなきゃ、と晶に撫でられてご満悦の巣鴨は変わらずふにゃっとした笑顔で返事をする。
立ち上がった彼は、充電器の刺さったスマートフォンからケーブルを引き抜いて、玄関で待ってるね、と階段を上がる晶に告げる。階段を登りながら、晶はわかった、と短く返事をするのだった。