ヴィンチェンツォは不貞腐れたように布団にくるまっていた。もっこりと膨らんだ掛け布団を見て、絢瀬は思わずため息が漏れる。
今日は晴天で、できれば掛け布団を干したいのだ。時刻は十時を少しすぎたばかりで、もう起きていてもいい時間だ。休みとはいえ、自堕落な生活は認めたくはないものである。
「ヴィンス、出てきなさいよ」
「やだ」
「んもう……お布団干したいんだけど」
「明日でもいいじゃん……」
「明日はわたしが休みじゃないのよ。バイトがあるの」
「私が代わりに干してあげるよ」
そういうと、彼は体を丸くしたのか、こんもりと平たい丘だった布団が、ずんぐりと丸く、高さを持った山になる。
そもそも、ここまで彼が布団から出たがらないのには理由がある。それは(絢瀬が確認してから)付き合ってはじめての長期休暇に、ヴィンチェンツォが日本に来た昨晩の話だ。
付き合ったなら、体の関係も持つものである。二人は国外の距離という遠距離恋愛をしているからこそ、尚のことそのことを理解していた。手紙やメール、音声チャットによるコミュニケーションは十分にとってきたのだから、次のステージに進むこともやぶさかではなかった。
体格差のある二人だからこそ、前戯は丁寧すぎるほどにした。問題はその後だった。
入らなかったのだ。
ヴィンチェンツォのものが、体格に見合ったものだったことと、絢瀬がそれまで純潔を守っていたが故の悲劇であった。誰も悪くないからこそ、どうしようもなかった。
「もうすぎたことよ。ほら、元気出して」
「だってさあ……」
「そんなこともあるわよ。……知らないけど、その、少しずつ慣らしていきましょう?」
「でもさあ、私、長くこっちにいられないじゃないか。そんな時間があるなら……」
「ゆっくり歩みましょう? 大丈夫よ、わたしたちには時間があるわ」
ふわり、と笑った彼女に、ヴィンチェンツォは勝てないなあ、と首をすくめた。
「そうだね。最初から急いでいたら、何もできないものね」
「そうよ。少しずつでいいの。戻っても、それをまたあなたと越えたい」
「……ん、アヤセの言う通りだね」
絢瀬の言い分に納得したのか、ヴィンチェンツォはもぞもそと布団から出てくる。
やっと今日顔が見れた彼の額に口づけをしながら、絢瀬は布団を剥ぎ取る。
「やっと顔が見えた」
「そこはさあ、君もベッドに来るところじゃないかい?」
「あら、わたし、眠たくないもの」
「昨日の夜の続きとかさ、しようよ」
「……明るいところでは嫌よ」
「なら、明るくなかったらいいのかい?」
「……夜なら、考えてあげる」
絢瀬の夜なら考える、という発言に、ヴィンチェンツォはぐっ、と拳を握る。
喜びに打ち震えていたからこそ気がつかなかった。絢瀬の頬が少し赤くなっていたことに。