僕はキョジオーン。ご主人の名前はペパーって言います。ご主人はご飯を作るのがびっくりするくらい上手で、きのみよりもよっぽどおいしいご飯を作ります。
コジオの時に捕まえられて、ぬし、とかいう驚くほど大きなポケモンとご主人と戦った僕は、ご主人が僕を逃がそうとしてもついて行きました。だってご飯おいしいし、それにご主人の連れているマフィティフさんが心配だったからです。そのマフィティフさんも今ではすっかり元気で、僕たちの頼れるリーダーです。ご主人とずっといただけあるなあ。
増えた手でご主人の手伝いをするリククラゲをみながら、僕ももっと家のことができたらな、と思うのです。体は誰よりも大きくなったから、荷物を持つのは得意だし、手だって大きくなったから、たくさん運べるのです。
でも、僕の手は塩でざらざらしているから、どうしても汚してしまって、ごめんなさいって気持ちもあるのです。ご主人はそんなこと気にしてないみたいだけれど。
ああ、でもこんな僕にも得意なことはあります。ご主人の作る料理に使う塩は僕の塩です。僕の塩が一番おいしいらしいです。嬉しいです。
「キョジオーン、ウォッシュするか」
「!」
「アオキさんのカラミンゴも一緒にウォッシュするけど、大丈夫か?」
アオキさんはご主人のつがいで、カラミンゴさんはつがいが連れているポケモンだ。何を考えているのか分からないけれど、悪いポケモンじゃないから別に平気だ。時々アクアジェットでつがいの人にじゃれついているのは……どうかと思うけれど。
こくこく、と頷いて平気なことを伝えれば、じゃあウォッシュするか、と満面の笑顔だ。ご主人は笑顔が一番だなあ、と思っていると、外に出る準備をしているご主人を見て、ピクニックだと勘違いしたヨクバリスさんが飛びついてくる。
キョジオーンのウォッシュだぞ、とご主人が教えれば、興味を失ったようにヨクバリスさんは僕から降りて、ネッコアラさんのほうに向かっていく。その態度はちょっと傷つくんだけどなあ。
ご主人に連れられてチャンプルタウン(いつもどこでもおいしそうな匂いがする、人がたくさんいる場所の名前らしい)のはずれに連れてこられると、ご主人はウォッシュのための道具を地面に置く。カラミンゴさんやマフィティフさんみたいに水で洗うんじゃなくて、僕の体はブラッシングが主です。
ご主人はブラシとヤスリをせっせと動かして、できすぎた塩を払ったり、固まった塩を取り除いてくれます。野生の頃は僕の塩を求めて、他のポケモンに舐められたりして余分な塩に困ることはなかったのだけれども、ご主人のポケモンになってからはなかなかそういうわけにもいかないのです。
ぽやぽやしながら、ごりごりと削れる塩の塊だろう音を聞いていると、あわあわの泡まみれになっていたカラミンゴさんが突然、くえー、と一声あげると体をぶるぶる振るわせる。
「こら、カラミンゴ。この間の実技試験での汚れがまだ落ちていませんよ」
「ははっ、アオキさん、顔に泡ついてる!」
「本当ですか。あとで拭かなくては……」
「オレが拭いてやるよ。ほら、こっちきてくれよ」
「すいません。お手数おかけします」
僕のウォッシュの手を止めて、ご主人はアオキさんの顔についた泡をタオルで拭ってあげる。一仕事してやった、と言わんばかりの顔をしているカラミンゴさんに、僕はわざとでしょ、と尋ねる。
『つがいが一緒に外に来てるのに、なにも愛情表現をしないのはおかしいと思う』
『そうかもですけど……』
『ニンゲンのつがいはああやるといいって、テレビで見た』
『毒されてるなあ……』
『チルタリスやオドリドリたちが見てる番組の定番だぞ』
『わあ……』
あれは作り物だから合わない時もあるんですよ、と教えてやれば、今のところだいたい愛情表現に繋がってるから問題ない、とカラミンゴさんはくえー、と返事をする。
そんな僕らを見ながら、ご主人とアオキさんは何話しているんだろうな、と話している。うーん、会話につながったなら、カラミンゴさんの狙いは当たりなのかもしれない。
「カラミンゴのおふざけを嗜めてくれていると助かるのですが」
「カラミンゴも甘えたかったんじゃねえの?」
「そうでしょうか……」
「実技試験で頑張ったんだろ? そうだって。多分だけど」
「それならいいのですが……カラミンゴ、いつもありがとうございます」
「くえー」
お礼はそっちじゃない、と羽を広げて訴えるカラミンゴさんに、僕は人に言葉を伝える機械があればいいのに、と座りながら思うのだった。あとご主人、僕の塩、まだ削り切れてませんよ。