title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)
「えーっと……たしか、竹取の翁が光ってる竹を見つけるところだよね、多分、このイラスト的に」
「だよね。めっちゃ木なのは、こっちに竹がないからなんだろうけど……あ、じゃあこの同じ単語は……木?」
「そうだな。『きこりのお爺さんは、光っている木を見つけた。不思議に思って木を切り倒してみると、ちいさな女の子がいた』だな」
「あー、なんとなく古文の授業を思い出す……そして、ちょいちょい異世界ライズされる竹取物語……」
名付けたのは誰になったんだろう、とユウタが言うと、占い師じゃないのか、とマクシミリアンが返す。どうやら、読んだことがあるらしい彼は、原作――ニホンの高校生がどこまで正しく知っているのかはともかく、大元の内容が気になるようだ。神主さんがつけていたような、とユウタが言えば、カンヌシ、とマクシミリアンがオウム返しする。神さまを祭っている人たち、とざっくりとした答えを言うユウタに、注文を済ませたヴォルフガングが教会の人間じゃねえか、と訳者に文句を言う。
「それだと、五人の貴公子に出す課題が何かが気になるなあ……」
「えーっと……なんかの玉の枝だっけ?」
「仏の御石の鉢と蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、竜の頸の珠、燕の子安貝だよ。この間授業でやったじゃないか」
「そうだっけ?」
「そうだよ。それで、最後はかぐや姫が月に帰るから、老夫婦に着物を渡して、帝に不死の薬を渡すんだよ。でも、かぐや姫がいなかったら意味が無いって、帝は不死の薬を駿河の一番高い山で焼いたから富士山になったんだよ……たしか」
「詳しいんだな、ユウタは」
「へへ……昔の人が書いた話が好きだから、学校で習う前にちょっとだけ……」
「だよね!? 授業でそこまでやってないよね!?」
やってないよ、とユウタが笑うと、騙された、とカナがユウタの首をがくんがくんと揺さぶる。はいはい、とマクシミリアンがカナの手を剥がすと、ちょうど店員が料理を運んでくる。
山盛りのじゃがいもとたまねぎのフライに、ネァイーウのコルドン・ブルーが並べられる。具体的な素材名を聞いたところで、それがどんな食材なのかを想像できないユウタとカナは、マクシミリアンとヴォルフガングが注文するものと同じものでいいと告げていた。じゃがいもはどこでもジャガイモだったかー、とフォークでつつくカナに、名前は違っても同じような食材はどこにでもあるんだな、とヴォルフガングはコルドン・ブルーをナイフとフォークで切りながら返す。
「ほそながーく切ったじゃがいもを揚げた料理とかこっちにはないの?」
「こういう、くし切りじゃなくてか?」
「くし切りのもいいけど、細長い方が食べやすくない? 指でつまめるし」
「……指が油っぽくなりそうだな」
「いいな、それ! 手軽につまめるじゃねえか」
「でしょ!」
喜色を浮かべるヴォルフガングと、それはどうなんだと眉をひそめるマクシミリアンに、対照的だなあ、とユウタはさくさくに揚がったオニヤンのフライを口に運ぶ。あたしたちの世界だとね、とフライドポテトについて語り出すカナと、真剣に聞くヴォルフガングをよそに、ユウタはチーズを詰めた鶏肉のシュニッツェル――カツレツがコルドン・ブルーだったな、とぼんやり考える。そうなると、このネァイーウというのは鶏に近い、もしくは鶏そのものの生きものなのではないだろうか。
そう考えたユウタは、呆れながらカナの話を聞いているマクシミリアンに尋ねる。
「ネァイーウってどんな生きものなんですか?」
「ん? ああ、赤い羽毛に白いトサカと尾羽のついた鳥だよ」
「……それって、えーっと……こんなかんじの?」
「おお、そうだな」
「鶏の色違いだった……!」
「へえ、色違いでネァイーウもそっちにいるのか」
「こっちだと、白い羽毛で、顎の下に赤いのが垂れ下がってるのが多いかなぁ。羽毛が茶色系だったりするのもいるんですけど……」
「なるほどな。ネァイーウは赤系の羽毛が多いな」
たまに変異種で紫だの緑だの珍しい色もあるんだが、そういうのはだいたい動物園だな、とマクシミリアンはくし切りのナチュラを口に入れながら返す。動物園とかあるんだ、とひとしきり盛り上がっていたカナが興味深そうに尋ねると、ヴォルフガングが首都まで出なきゃないのがな、と文句を言う。
帰り方が分からなかったら、そのうち連れて行ってやると笑うヴォルフガングに、お母さんに会えないのは寂しいから帰りたいな、とユウタがこぼす。あたしも豆吉に会いたいし帰り方探さないとね、とカナが励ますようにユウタの背を叩く。
「まあ、一ヶ月前に来たって言う異世界人はどうなったのか、だよな……リーゼが暇してたら、聞けるんだけどな」
「店が忙しいからな。暇になったら、どうせこっちにくるだろうさ」
「リーゼさん? あ、ノートを寄贈したっていう……」
「そそ。この店、あいつの家族で経営してるからさ。ほら、あそこで料理を運んでるでっけえ女がいるだろ? あいつがリーゼ」
「めっちゃむきむきだ……! え、普通にかっこいい女の人じゃん」
「カナちゃん……筋肉大好きだもんね……」
キラキラした目でリーゼを見つめるカナに、呆れたようにコルドン・ブルーを口に運ぶユウタ。カナはやっぱり筋肉がないとね、と鼻息荒くコルドン・ブルーを咀嚼する。
「あれなんだよね。脂肪を落とせば腹筋は出てくるけど、どうせだったら育てた腹筋がみたいじゃん?」
「わかる。俺もそう」
「そういうのを堂々と言うから、この間みたいにケンカになるんだよ」
「事実じゃん。だいたいさぁ、アイドルの脂肪を落として浮き出ただけの腹筋を細マッチョ、とかいう文化がおかしい。鍛えておいて欲しい、マッチョ名乗るなら」
「筋肉に厳しいんだな、カナは」
「厳しいですね。カナちゃんのパパ、ボディビルダー……筋肉をいろんな人に見てもらって、評価してもらうのをしてるのもあるんですけど、おかげで凄く目が肥えてて」
「いいことじゃねえか。筋肉があるってだけで、やっぱり安心するしな」
「だよね! さっすがヴォルフガングさん! 筋肉持ってる人は話がわかる!」
うんうん、と頷く彼女に、これは話が長くなりそうだなあと理解したユウタは、もそもそとパンを咀嚼する。マクシミリアンもまた、面倒ごとはごめんだ、と言わんばかりにカナから少しだけ距離を物理的に取ると、ラーナナとチュークのサラダをくるくる回る店員に注文した。
ヴォルフガングに任せると、すぐに油物ばかりになってかなわん、と文句を言うマクシミリアンに、肉よりも野菜が好きなユウタは、煮物とかってあるんですか、と尋ねるのだった。