title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)
「よう、寝坊助。よく眠れたか?」
「おはようございます……ふああ……」
「おはよーございます……ベッド広かった……」
胃を刺激する、それでいてやわらかい匂いで目が覚めたユウタとカナは、あてがわれたゲストルームからのそのそ出てくる。ベッドが二つ置かれているその部屋は、マクシミリアン曰く少し狭いベッドらしいのだが、平均的な日本人程度の身長――ユウタは百七十センチないが、いずれ伸びるとは本人の言葉である――の二人からすれば、十分すぎるほど大きかった。
リビングダイニングにある開けっぱなしの掃き出し窓から、ヴォルフガングが斧を振るって薪を割りながら声をかけてくる。朝から元気な人だなあ、と二人が思っていると、起きたなら手伝え、とマクシミリアンに声をかけられる。
「何を手伝えばいいですか?」
「ユウタはスープをよそってくれ。カップはそこに用意してあるから」
「はぁい」
「あたしは?」
「もうじきパンが焼けるから、トースターから出してくれ。熱いから気をつけてな。ミトンならトースターの横にあるから、使ってくれ」
「分かった!」
規格外に大きい――カナより四十ルミゴ(ユウタとカナが単位を二人に聞いて判明したが、一ルミゴがおおよそ一センチであり、メートルになるとラミゴに変わり、キロがつくとラノが頭につく)ほど大きいのだから、おそらくニラミゴほどの体躯に合わせたキッチンは、百六十五センチしかないユウタにとってなかなかの試練である。そう、そもそもスープの入っている鍋までが高いのである。
下手に肩肘張らない性格のユウタは、マクシミリアンに踏み台か何かないか尋ねる。その言葉にきょとんとしたマクシミリアンは、すまんすまん、とすぐに謝る。
「そうか、高いよな、シンク」
「はは……はい」
「踏み台はヴォルフガングに作らせておくよ。スープは俺がよそうから、テーブルに並べてくれないか?」
「わかりました」
カナが自分の手よりもずいぶんと大きいミトンと格闘しながら、パンをトースターから取り出しているのをよそ目に、スープの入ったマグを受け取ったユウタは、それを零さないようにテーブルに乗せる。
ことん、とマグを置くと、パンを取り出すことに成功したカナがパンを入れたカゴをテーブルにとん、と置く。
「めっちゃいい匂いするよね、これ」
「ね。スープはなんだろうね。この浮いてる白いのって、昨日出たたまねぎかな」
「あとでマクシミリアンさんに聞いてみようよ」
「そうだね」
二人がそんな話をしていると、ヴォルフガングが割り終えた薪を片付けてきたらしく、掃き出し窓から部屋に上がろうとしていた。外履きのブーツから、室内用のシューズに履き直した彼は、オニヤンとネフヌのスープだよ、と二人に教える。
「干したネフヌはスープのいい材料になるんだよ、っと。マクシミリアン、踏み台は二つでいいか?」
「ああ、二つあれば十分だろう。明日でいいぞ、今日は出かけるからな」
「おう、分かってるよ」
まだうぞうぞとうねっているレタスのサラダに、カナはまた出た、と思わず声が出る。レタスによく似た野菜は、トマトや巨大な玉ねぎとともに、サラダを始めとした付け合わせとして活躍するらしい。
元気にうねうねしているのがおいしいらしく、うねうねしているからといって寄生されることはないらしいのだが……いかんせん、千切ってもなお動く野菜にカナもユウタも馴染みがない。
おいしいんだけど見慣れないなあ、と塩をかけただけのレタスとたまねぎのサラダを食べるユウタに、あんたは大物になるよ、とカナはおそるおそるレタスにフォークを刺す。
「ユウタなら、あれも好きそうだよな」
「あれか。そうかもしれんな」
「あれ?」
「あー、どうせ碌でもないものでしょ、あたしわかる」
「デビルズハンマーっていう野菜だよ。レタスが二回りでかくなって、外側がハンマーで殴らないとダメなくらい硬い野菜でよ。これがまた、中身が紫色でうぞうぞしてんの」
うぞうぞ具合をヴォルフガングがジェスチャーで示すと、ユウタは目を輝かせる。
「へえ! 生で食べるんですか?」
「生よりはスープの材料だな。トメラ・チズルメルよりさらに北の国が原産だから、スープによく使われるんだ」
「うわー、ヴォルフガングさんもマクシミリアンさんも平気そうに言う。あたし無理」
「だとよ、マクシミリアン。異世界にはこういうやつないんかね」
「ないんだろうよ。デビルズハンマーは栄養価が高いから、価格も高いからなあ。なかなか買えなくてな」
「よかった! なかった!」
「ちぇー。食べてみたかったけどなあ」
それぞれ違う反応をする二人を見て、マクシミリアンはいる間に手に入るといいな、と笑う。ヴォルフガングは既にその話題に興味を失っていたのか、空のスープマグを手にキッチンに向かっていた。