title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)
結果から言えば、異世界へ繋がっている疑惑のある廃教会のクリスタルは、ユウタとカナを元の世界に戻していった。
もう来られないかもだけど、と言いながら、また来られたら遊びに行きます、と二人揃って言うものだから、マクシミリアンもヴォルフガングも笑ってしまった。そんな軽々しく世界の壁を跨いでしまっては、異世界に放り込んだ女神も真っ青だ。
クリスタルの残光だけを残して、二人が還っていくのを見送ったマクシミリアンとヴォルフガングはランプ片手に来た道を引き返す。
「少しの日数しかいなかったくせに、随分馴染んでいたよなあ、あいつら」
「全くだな。しかし、あの勢いだとまた来そうだな」
「おいおい。あの踏み台を薪にできないじゃねえか、また来たら」
「そのまま残しておけばいいだろう。あって困るものでもないしな」
「うーん……まあ、いいか。記念だ記念」
行きは暗い暗いと騒ぐカナと、足元の木の根に足を取られるユウタのために時間をとられたが、歩きなれた二人だけだとかかる時間も短い。
行きからついてきていた精霊族が、姿を消してふわふわと漂っているようで、二人の周囲だけ空気が軽い。時々マントやローブを引っ張ってくるから、もう帰って寝るんだよ、とヴォルフガングが追い払っている。
「向こうでは何日経っているんだろうな」
「ん? あー、そうか。こっちに来ている間、向こうの家族は心配してるだろうしなあ」
「親御さんには悪いことしたよな、女神とやらも。……にしても、なんでこんなに手軽に帰ることができるのに、異世界の人間をこっちに呼ぶんだ?」
「知らねえよ、そんなこと。女神とやらも暇だったんじゃね? こっちでユウタとかカナとか連れてきて、なんか騒がしいことをしたかったのかもな」
「なるほどな。それなら、ここよりもっと情勢が不安定な場所に送ればいいものなのにな……いや、あんまり不安定過ぎると騒ぎになる前に死ぬかもしれないから、わりと安定しているここに送られたのか?」
「さあなぁ。なんにせよ、スムーズに帰すことができてよかったよ。な、マクシミリアン」
「そうだな」
いくら考えを巡らせても答えの出ない、今回の異世界からの客人について考えるのをひとまずやめたマクシミリアンは、ラスクの瓶とパン二つ持たせたけど、家に帰るまでに持てばいいよな、とこぼす。
「どこに飛ばされたのかだよな。家の近くならいいけど、森の中とかだと今度こそやばいよな」
「だな。まあ、民家の近くに飛んだことを祈るしかないな……俺たちのところに来た時もそうだったしな」
「だな。ま、考えても仕方ないよな。はー、一仕事終わったら腹減ってきたな」
「お前なあ。さっき飯食べただろう」
「そうなんだけどよ、歩き回ったら腹減らねえ?」
「……分かったよ。俺も小腹は空いているし、なんか作ってやるよ」
「よしきた」
にこにこ笑いながら、ヴォルフガングは森の出口に向かって歩いていく。ご機嫌な同居人に、マクシミリアンは肩をすくめながらついていく。
森を抜けて、自宅までの道を歩きながら、ヴォルフガングは来週までいられたらよかったんだけどな、とこぼす。そうだな、とマクシミリアンも頷く。
「だが、帰り方が分かったかもしれないのに、先延ばしにすることもないしな」
「だなあ。せっかく夏の豊穣祭が来週からだってのに、かわいそうなことをしたかもな。屋台とかたくさん出るから、めちゃくちゃ楽しいのにな」
「ま、それはもし次来たら連れて行けばいいさ」
「だな」
もしもの話をしながら、二人は自宅の鍵を開ける。少し前まで四人でいた部屋は、二人しかいないと少し広く感じてしまう。いつもと変わらない部屋の広さのはずなのに、だ。
ユウタとカナの存在に毒されたかな、とヴォルフガングとマクシミリアンは顔を見合わせて笑う。マクシミリアンはキッチンに向かうと、スープでいいよな、とヴォルフガングの返事を待たずに汲み置きしておいた水を鍋に張る。
そんな彼に、俺の返事聞いてないじゃん、とぼやきながら、ヴォルフガングはどっかりとソファーに腰を下ろす。借りてきた本を開いてみるものの、もとよりそこまで本に興味のないヴォルフガングはすぐに飽きたらしく本を閉じる。
手持ち無沙汰な彼は、やることねえの、とマクシミリアンに話しかける。
「なんだ、手伝いか? ユウタに感化されたか?」
「暇なんだよ、いいだろ別に」
「だが残念ながら、スープはもうできるぞ。便利だな、スープの素」
「なんだそりゃ」
「トメラ・チズルメルの新製品だとよ。味はともかく、お湯に溶かせばなんとなくスープになるらしい」
「味はともかく、ってなんだそりゃ。便利だけど、味がイマイチなら意味なくね?」
「それでも、こういう腹が減って仕方ない時には便利だろ?」
「まあな」
そんなやりとりをしながら、スープマグにスープを入れたマクシミリアンは、そのうちの一つをヴォルフガングに手渡す。受け取った彼は一口啜り、ビミョーな顔をするのだった。