title by scald (http://striper999.web.fc2.com/)
黄金の砂都・ウルダハは交易都市である。多くの商人がウルダハで一攫千金の夢を叶えんとしては、夢破れて去っていく。その一方で、ウルダハン・ドリームを叶えた商人もいる。
そんな都市は夜も昼も多くの人で賑わっている。懐が豊かな人間もいれば、そうではない人間も多い。そして、夜に多くの人で賑わうその店は、前者の客が多い。
日が暮れてから賑わうその店には、今日も多くの客がいる。不定期にやってくる二人のダンサーを見るために、日々通い詰めているのだ。
*
ステージにポールが二つ並んでいる。気だるげなハイランダーの女性が、深い赤のリップを塗ったぽってりとした唇を動かしている。ダウナーな曲を歌い上げる彼女に寄り添うように、ピアノのメロディーが重なる。
ステージを囲うように存在するテーブル席は、空席一つ見当たらない。エロティシズムをかき立てるように落とされた照明のもと、ピアノと歌声が途切れる。ステージを照らしていた照明も落とされる。
ふっつりと暗闇に染まった店内は、一拍置いたのちにピアノの音がホールに響く。男性歌手の気だるそうな歌声と共に、ステージに明かりが灯る。
ステージを照らす明かりは、目を焼くほど明るくはない。それが返って退廃的な空気を生み出している。ポールに寄りかかるように立っている男が、歌声に合わせるように手を伸ばす。決して華奢ではない男性の腕であるはずなのに、細く美しい女性の腕であるかのように艶かしい。
シャツを放り投げて、腕を天へと伸ばし、後ろ手でポールを掴むと、そのまま身体を浮かせながら開脚する。くるり、と半回転すると、着地した右脚を軸にポールと密着して体をくるりと回す。右脚をポールに引っ掛けたまま回ったかと思えば、左脚を引っ掛けて回る。決して速くない回転速度であるから、かえって艶かしさが増す。
腕力だけで身体を支えながら、頭を下にして開脚したまま二回転する。そのまま右脚をポールに引っ掛け、左足をポールに添えながらさらに回る。静かな歌声だけが響くステージで、男の演技に人々の目が向かう。
大きく――百八十度以上に開いた脚でくるり、と回る。肘の内側でポールを固定しながら回り終えた男は、地上に降り立つと優雅に一礼をする。
数分間の短い演技。静かな騒めきとともに拍手が巻き起こる。拍手が鳴り止むと同時に、ステージに別の男が立つ。踊っていた男よりも背こそ低いが、鍛えられた身体をしている。同じように尖った耳をしているから、エレゼン族なのだろう。
二人は無言で互いを見ていたが、曲調が変わると動き出した――
*
男たちはステージから捌けると、シャツのポケットや、履いていたスラックスのベルトやポケットに捩じ込まれた紙幣を見ては、今日も盛況と笑い合う。
二人のために用意された控室に戻ると、服の捻じ込めるところ全てに捩じ込まれた紙幣を引っ張りだす。くしゃくしゃの紙幣を広げながら、それぞれ財布に詰めていく。何枚も――何十枚も捩じ込まれた高額紙幣たちに、男たちは満足そうにほくほくの笑顔だ。
「今日も稼ぎましたねえ」
「相変わらずいい小遣い稼ぎになるよな」
「全くですよ。いやあ、シャルロッテと顔を近づけるだけでチップが増えるんですもん。楽な商売ですよね、笑っちゃう」
「全くだわ。ネッロと俺みたいに、顔のいい男たちが絡んでるのが楽しいんだろ……って、ん? 客か?」
「さあ? 店のマスターだとあれですよね、入れますか」
どうぞ、とネッロと呼ばれたくすんだ白金色の髪の男が招き入れると、外にいた人物がドアをあける。そこにいたのは、シャルロッテと呼ばれた最初に踊った男の前に歌っていた女だった。
赤くぱさついた長い髪を揺らした女は、シャルロッテにしなだれかかると、形のいい尖った耳に口元を寄せる。今晩いかが、と。
「魅力的なお誘いなんですけど、夜を一緒に過ごすなら、商売女って決めてるんですよね」
「あら、わたしじゃ不足かしら。商売女よりも楽しませるわよ」
「自信たっぷりなことで。ただ、まあ、手を出すにはあんたじゃ火遊びが過ぎるんですよね」
「あら、今は独り身よ」
「商売で春を売る女は後腐れなくていいんですけど、仮にも職場で手を出すのはちょっとね。評判にも関わるんで」
「こいつはそういうところ、しっかり線引きしてるんですよね」
諦めたらどうですか。もう四回目ですよ。
そうネッロに諭されて、女はぎりぎりと苦虫を噛み潰した顔をする。胸を押しつけていたシャルロッテの体から離れると、しなを作りながら部屋を後にする。まるで、まだ諦めがつかないと言わんばかりだ。
そんな女を見送ることもせず、シャルロッテとネッロは靴を脱ぐ。靴の中にまで捩じ込まれた札を引っ張りだしながら、こんなところに詰め込まれるとは紙幣も思ってないよな、と笑い合うのだった。
先程までの情熱的に寄り付いてくる女のことなど、もうすでに二人の中にはなかった。