単発バイトで入ったのは、商店街の店先でやる福引だった。一定金額以上の買い物をするともらえる券を回収して、がらがらのあれ(ガラポン抽選機とかいうらしい。まんまなネーミングだ)をまわしてくださーいっていうだけだ。いや、他にも景品を渡したりするけど、まあそんな感じ。
子連れがきたり、おばあちゃんが回しに来たり、おじさんが回していったりして、はずれのティッシュがだいぶなくなってきたころのことだった。びっくりするぐらいキレイな男女がやってきたのだ。男の方は見上げるほどに背が高く、地で黒いのか、褐色肌の男は黒い髪の下にある灰色っぽい目をしている、イケメンだった。連れている女の方は胸の大きさに目がいってから、顔立ちがあまりにも左右対称だった。ぱっちりとした大きな目に小さな口。つん、と尖った鼻先にほっそりとした顔の線。腰まである長い髪も相まって、圧倒的美少女だ。そんじょそこらのアイドル程度じゃ太刀打ちできないレベルだった。
芸能人じゃないのが驚きな美男美女だった。女のほうがにこにこ笑顔でおねがいしまーす、と福引券を三枚渡してくる。全部回していいのか、と男に確認している姿は、かわいいが先行していて、人間離れした美少女が人間らしく見えた。
「いいの、当たるといいなあ」
「当てるなら三等だな」
「どうせなら特賞狙おうよぉ」
そんな話をしている二人は、がらがらの取っ手を美少女が握って回す。がらがら、と回って出てきたのは黄色の玉。次は緑の玉、そして白い玉。黄色が四等、緑は五等、白い玉ははずれのティッシュだ。五等のタオルセットと四等の洗剤詰め合わせとティッシュを渡すと、重たいのが増えちゃったねえ、と美少女がにこにこ笑っている。男の方は、しばらく洗剤を買わなくても良くなったな、とその頭をなでている。仲がいいことだ。羨ましい。
男のほうが洗剤の詰め合わせと、買いものを終えてパンパンになったエコバッグを抱えて、美少女がタオルセットの箱を抱えて、ティッシュをポシェットにおさめていた。
レベルが違いすぎてほしいとも思わないが、ああも美男美女がそろっていると目の保養になるなあ、と思いながら、次の客の相手をする。その人もさっきの美男美女の話を連れ合いにしているものだから、皆見ちゃうよなあ、と思うばかりだった。
*
「タオルと洗剤だが……当てたのは奈々美だから、少し持っていくと良い。重いものをもたせることになるから、家まで送っていこう」
「いいの?」
「ああ。新しいフェイスタオルがほしいから、バスタオルのほうになるが……」
「全然いいよ。あ、じゃあこっちの台所洗剤もらっていい? これ、家で使ってるやつなんだ」
「ああ、構わない」
陸上の自宅で、陸上と奈々美は福引であてたものを開封していた。真っ白いふわふわのタオルはフェイスタオルを陸上が自分の方に回収して、奈々美が台所洗剤をリュックサックにいれている。風呂洗剤を見た奈々美が、これテレビのコマーシャルで見たよ、と持ち上げる。スプレーをして時間を置くだけできれいになるとかなんとか、とコマーシャルの内容を思い出そうとしている彼女に、そうか、と陸上はうなずきながら洗濯用洗剤を自分の方に引き寄せる。
洗剤をあらかた二人で分け合い、スクエア型リュックサックにパズルのように洗剤のボトルを詰める奈々美を見ながら、陸上は夕飯は食べていくのかと尋ねる。普段ならば、食べる、と一も二もなく言う奈々美だったが、今日は珍しいことに少し考えてから、今日は下の姉ちゃんが返ってくるから、と断る。
「ああ、絢瀬さんか」
「うん。絢瀬姉ちゃん、クリスマスから有給消化兼ねて実家に戻って来るんだ、ヴィンスくんと一緒に」
「家族団らんか。邪魔をしたら悪いな」
「えへへ! そういうこと! あ、そうそう。絢瀬姉ちゃんも鷹山くんに会ってみたいって言ってたから、そのうち会ってくれる?」
上目遣いで小首をかしげる彼女に、これを計算して行っていないのだから大したものだ、と陸上は思いながらひとつ頷く。
「ああ、是非に。俺も実家に帰るから、その前に会う機会を用意できるように調整しよう」
「うんうん! あとは、えっと、鷹山くんの家にも行くんだっけ……」
「よく覚えていたな」
うちの実家にも挨拶しないとな。
そう頷いた陸上は、これもいるか、と固形石けんの箱を手渡しながら聞くのだった。顔を少しばかり赤らめて、奈々美は楽しみ、とにこにこ笑顔を浮かべるのだった。