title by scald(http://striper999.web.fc2.com/)
ロフトベッドに転がり込んだあたりからの記憶がない。関節という関節が痛む感覚で目が覚めたシャルロッテは、シャツの背中が濡れている感覚に眉をひそめる。気色の悪いその感覚を剥がすように、鉛を詰め込まれたように重たい体を起こす。
ベッドの上で上半身を起こした彼は、ふー……とひとつ息を吐く。吐き出した息が熱い。びったりと背に張り付くシャツ、鉛のように重たい体と、節々が痛む体。吐き出した呼吸の熱さに、自身が発熱しているということを、それらは嫌でも思い知らせてくる。
「原因はアレだろ……どう考えてもよ……」
昨日立ち寄った娼館で、自称二十代の――二十代にしては随分と老けた顔立ちをしたハイランダー族の女性に渡された錬金薬が原因だろう。
曰く精力剤らしいそれを良く混ぜてから、女に半分飲ませ、シャルロッテ自身も半分飲んだのだ。なんとも言えない苦味が滋味だというのか、確かな効き目だというのか、確かに盛り上がりはした。それが昨晩のことである。
やはり碌でもないものだ、と分かっていて飲むものじゃない。そう自嘲しながら、彼は汗で濡れた服を着替えるためにロフトベッドから慎重に降りる。
濡れたシャツをカゴに入れ、吸水性のいいシャツに着替える。水道の水をコップに注ぎ、一息で煽る。シャツが濡れそぼるほどの汗の量だ。体は水を欲しがっている。乾いた大地が水を吸うように、さらに水が欲しくなる。
二杯目の水を煽り、三杯目の水を半分ほど飲んで、シャルロッテは昨夜飲んだ精力剤の副作用は熱だけか、と自身の体を改める。
体の怠さくらいしか思い当たる節はないが、妙に――妙に持て余す衝動はある。副作用の元が精力剤だから、ではないだろう。根本的な――肉体が危機に瀕しているという勘違いから、本能が反応しているのだろう。
「……流石にヌくにしても、ヤりにいくにしても、体調が体調だと流石にな」
大人しく今は寝て過ごすに限る。コップに残った水を煽り、シャルロッテはロフトベッドに上る。枕に頭をつけて、ひとつ息をつけば重たい体に引きずられるように意識はすぐに落ちていった。
*
「あ、起きました?」
「起きた」
「……あ?」
次に目が覚めると、ブラインド越しに入る日差しはだいぶ偏っていて、随分と時間が経っていたことを告げている。
額の上に乗せられていた、固く絞られた温い――おそらく冷たく濡らされたタオルだったそれをはがす。体が求めるままに眠り込んでいたからか、随分と軽くなった体を起こせば、オーケストリオン・フォノグラフに登録しているプレイリストをいじっているネッロと、シャルロッテが連れ回しているグリーングリーナーに餌付けをしているテッフェがいた。
「飯食べにいく、って言い出した本人が来ないから、家まで見に来たら熱出して倒れてるんですもん。驚きましたよ」
「悪いもの食べた」
「どうせ、碌でもないもの口にしたんでしょ。女からもらうものに口をつけるの、やめた方がいいですよ」
「あー……まったくだわ……」
「うわ、マジで口にしたんだ。自業自得でしょ」
だいぶ落ち着いたんなら飯行きますか。そう尋ねてくるネッロに、シャルロッテは空腹を思い出す。思い返せば、朝から何も食べていないのだ。
体は軽く、腹は減っていて、下腹部に溜まる衝動もない。ならば、約束通り食事に行ってもいいだろう。
「行くかあ」
「お、復活してきましたよ、あの男。今日の財布はシャルロッテ、ってことで」
「病み上がりに無茶させてくれるなよ。割り勘に決まってんだろ。割り勘」
「どっちでもいい。魚が食べたい」
「はいはい。魚ならリムサ・ロミンサですかね。クガネもいいですよね」
「あんまり遠出したい気分じゃないな。リムサ・ロミンサだな」
「なら決まりですよね」
さっさと行きましょうよ。シャルロッテに着替えを投げつけながらネッロが急かす。お腹すいた、とテッフェがグリーングリーナーの頬、と思しき場所を突きながらシャルロッテを急かす。
自由な二人に呆れながらも、約束を反故にしかけたのは自分なので、シャルロッテは大人しくシャツを着替えるのだった。