novel
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私とわたしの日々是好日
ゆめのあとさき
これは夢だ。ヴィンチェンツォはすぐに気がついた。このマンションはペット禁止ではないが、二人はペットを飼っていないし、飼う予定もない。また、知人がペットを預けに来た覚えもないのだ。だから、これが夢だと分かった。 明晰夢というものかな。そ... -
私とわたしの日々是好日
おいしいさかなのたべかたについて
インターフォンが鳴った。珍しい、絢瀬はそう思っていた。 オートロックのこのマンションは、外部の人間が入るためには、エントランスに設置されているインターフォンを押す必要がある。しかし、絢瀬の友人や、ヴィンチェンツォの友人は、家でホームパ... -
私とわたしの日々是好日
昼下がりの誘惑
うららかな春の陽気に誘われるように、ヴィンチェンツォと絢瀬は街に繰り出していた。 春めいた気温のせいか、街には人で溢れていて、まるで冬眠があけたように賑やかな空気だ。 「あったかいね。上着、やっぱりいらなかったね」「そうね。カーディガン... -
私とわたしの日々是好日
デジャ ビュの映画
小さく口を開けて、絢瀬はさくらんぼを口に入れる。歯を突き立てれば、果肉に刺さる感触。硬い種にあたった歯で、種の周りの果肉を削ぐ。酸っぱい中にある甘さが好きで、種を口から吐き出して果肉を咀嚼する。 二つ目のさくらんぼを口に入れて、もごも... -
私とわたしの日々是好日
ノスタルジックランチタイム
職場から程近い場所にある定食屋は、まるでそこだけ古き良き昭和の世界に取り残されたようなノスタルジックな空気があった。 異動に伴って訪れた地で、舌にも身体にも合う空気と味を持つ店を探すのは大変だったが、ようやっと見つけたこの店は、終の住... -
私とわたしの日々是好日
Corpo satollo anima consolata
たまにはシーツを洗おう。 その話になったのは、すっかり春らしい暖かい空気が満ちた頃のことだった。シーツをひっぺ剥がしながら、もう冬用のもこもこもふもふの掛け布団じゃなくてもいいわね、と絢瀬がドリップコーヒーを飲みながら言ったのが始まり... -
私とわたしの日々是好日
トラブルメイキング
title by インスタントカフェ(http://saria.s53.xrea.com/) その日のヴィンチェンツォは、少しばかり運が向いていなかった。 朝起きたときに、普段ならやらないようなミスをしていたことから始まる。第一は、スマートフォンを充電ケーブルにつなぎ損... -
私とわたしの日々是好日
花と恋
ふ、と目についたのだ。 スーパーマーケット前でバスを降りた絢瀬は、いつもの帰路を歩こうとして、目に入った鮮やかなものをよく見ようと足を止めて近寄った。 そこは花屋だった。スーパーマーケットの一角に併設されたその店の軒先に、色とりどりに... -
私とわたしの日々是好日
美しいだけ喰らう
title by alkalism(http://girl.fem.jp/ism/) ぴかぴかのフルーツタルトがテレビ画面に映し出されている。それは、先日職場で噂になっていた店のものだった。 目にも鮮やかなフルーツが山と盛られたそれは、妋崎(せざき)が妻が買ってきてくれた、と... -
私とわたしの日々是好日
ミッドナイト・インスタント
誰にだって眠れない夜というものは存在する。 例えば、それは悪夢を見たことが原因かも知れない。たまたま寝付きが悪かっただけかも知れない。もしかしたら、酒を飲んだせいかもしれないし、トイレに行ったが故に目が覚めたのかも知れない。 そんな夜... -
私とわたしの日々是好日
breakfast 淹れたてのコーヒーと
平日の朝は忙しい。ヴィンチェンツォは半分眠っている頭を無理やり動かしながら、オーブントースターにバターロールパンを放り込んだ。パンが温まるのを待ちながら、ヴィンチェンツォはエスプレッソマシンのミルクコンテナに牛乳を注ぎ入れる。 カプチ... -
私とわたしの日々是好日
自家製のひだまり
title by alkalism(http://girl.fem.jp/ism/) ちゅんちゅん、ちゅんちゅん。小鳥の囀りの音を模したアラームがベッドヘッドから聞こえてくる。 「んんん……ふああ……」 休みの朝、ヴィンチェンツォが眠たげな声を出しながら、目をこする。抱きかかえて...