novel
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私とわたしの日々是好日
夏の気配
緑鮮やかになりつつある五月の終わり。絢瀬はスーツのジャケットを着ながら、暑くなってきたな、と思う。 こういう時に車通勤ができたのなら、冷房の効いた車内にいられるのだけれど。そう思いつつも、会社から自宅までの距離ではガソリン代が出ないこ... -
私とわたしの日々是好日
三時のティータイムは映画の後で
大団円とは言いがたい、それでも決して幸せが待っていないとは限らないことを示唆する映像の後、エンドロールが流れる。ピアノの静かな音がスピーカーから聞こえてくる。 前評判は悪くない映画を、封切りした翌週に絢瀬とヴィンチェンツォは見に来てい... -
私とわたしの日々是好日
それはまるで、愛を告げるように
すり、と耳の付け根を撫でられて、ヴィンチェンツォはまただ、と思う。 絢瀬と並んでソファーに座っていても、それぞれ別のことをしているときは多々ある。そんな、隣り合っていながらも、別のことをしているときにそれは起こるのだ。 例えば、のんび... -
私とわたしの日々是好日
深夜十時、交差点近くのコンビニにて
くあ、と思い切り欠伸をする。隣の先輩アルバイトに睨まれたが、まあ気にしないことにする。 欠伸をしたってしかたがないだろう。もう夜中の十時で、客足がまばらなんてものじゃない。ほとんど来ないのだ。そりゃあ、もう、欠伸だって出放題だ。 「眠い... -
私とわたしの日々是好日
アクアリウムと魚の夢
ゴールデンウィークともなれば、どこへ行くにしても人混みは避けられない。それは関東地方だろうと東海地方だろうと変わらない。 人混みは好きではないから、と実家でごろごろ過ごしたかった絢瀬だったが、ついてきたヴィンチェンツォの、名古屋の水族... -
私とわたしの日々是好日
イン・ザ・ワンダフルデイズ
ヴィンチェンツォが洗濯物を回して、リビングでいつものように絢瀬と談笑していた。絢瀬の職場近くにできたコーヒーショップでコーヒー豆を買おうかと相談していると、そろそろ脱水が完了する頃合いで電話が鳴った。スマートフォン片手にリビングを出て... -
私とわたしの日々是好日
アドリア・エメラルドに愛を馳せて
ヴィンチェンツォはドラッグストアで買ってきた、小さな――本当に小さなマニキュアの瓶を持ち上げて、どうしようかと考えていた。 きっかけは大したことではない。ただ、ドラッグストアでたまたまマニキュアを見かけたから購入した。ただそれだけだった... -
私とわたしの日々是好日
噛み跡にキスをして
じい、っと絢瀬は全身鏡を見ていた。そこには紺色のランジェリーを身にまとった彼女の全身が、蛍光灯の下はっきりと写っている。 別に今日のブラジャーとショーツはセットのデザインじゃないから可愛くないとか、そういうことを気にしているわけではな... -
私とわたしの日々是好日
いっぱいたべるきみがすき!
名古屋行きの新幹線に乗るため、ヴィンチェンツォと絢瀬は駅に来ていた。新横浜から名古屋に向かう新幹線の切符を手にしながら、二人は駅の土産物コーナーを物色していた。ホームに向かうには、まだ時間は十分過ぎるほどあった。指定席の新幹線は、あと... -
私とわたしの日々是好日
今日は君だけの従者
ヴィンチェンツォはご機嫌で朝を迎えた。 昨晩ベッドの中で盛り上がり、二回戦に飽き足らず、延長戦を申し込んだら許可が出たのだ。翌日が休みだからと言うのもあるが、翌日身の回り全ての世話をすべて行うと言う条件で延長戦ができたのだ。 声を咬み... -
私とわたしの日々是好日
おやすみ、愛しい人よ
テレビが賑やかにスポーツの内容を報じている。それはイタリアのサッカーの話題で、母国の話で盛り上がっている画面に、つい身を乗り出してヴィンチェンツォは見ていた。白熱した試合をリプレイ映像が流れ出した、ちょうどそのときだった。 うとうと。... -
私とわたしの日々是好日
dinner いい香りに誘われて
「あっ」 ぼう、としていたがゆえに、ヴィンチェンツォは鍋の中のお湯がごぼごぼとなるまで放っておいてしまった。といっても、まだ具材は何も入っていなかったのがせめてもの救いか。 サラダを盛り付けながら、危ない危ない、と彼はコンロの火を弱める...